部室を出ると目の前に勇征くんがいた。
ただ立ってるだけなのになにこのかっこよさ?
これ毎日待たれたらすごい快感…。
なーんて軽く思ったものの。
「元気なーい!」
「え?」
そう言った勇征くんは、ふわりと堂々と私を抱きしめた。背中に回した腕でポンポンと優しく撫でながら「俺の元気分けてあげるね?」なんて言うんだ。勇征くんの肩越しに見える慧人くん。わざと、やったんだって分かった。分かったからそのまま勇征くんの温もりにそっと目を閉じる。
「目障り、他所でやれよな」
すれ違う時にそんな罵声。悔しい。わざと妬かせたくてやってるのが全部裏目に出ちゃって。なんだろう、この虚しさ。
「ガキかよ慧人…」
まるで追いかけるような勇征くんの言葉に、部室のドアノブを握った慧人くんの手が止まる。慌てて勇征くんの腕の中から飛び出る私を素早く後ろに隠した勇征くん。だけど慧人くんがツカツカ歩いてきて「もう一回言ってみろ!?」あろうことか、長身の勇征くんの胸ぐらをググっと掴みかかった。
鼻と鼻がくっつきそうなくらい近づいている二人に「勇征くんやめて!」そう言おうとしたらグっと後ろ手でグッと掴まれて。ドンって慧人くんを突き放した勇征くん。軽く肩で呼吸をしていて、小さく息を吐き出すと綺麗な美声で言い放ったんだ。
「悪いけど俺、女の前で喧嘩はしねぇ。やるならゆき乃ちゃんいないとこにしろよ」
勇征くんに腕を引っ張られて私はそのままこの場から連れ去られた。
慧人くんの顔が見れなかった…。
「ごめん、そんな悲しそうな顔しないで…」
困ったように私を見つめる勇征くんに悪気はない。私を思って助けてくれたんだって、分かってる。でも慧人くんが今一人でモヤモヤしている気持ちを思うとやりきれなくて…
結局私は慧人くん優先に考えているのかもしれない。どんなに酷いことされたところで、どんなに大嫌いって言ったところで、結局私は慧人くんが好きだという事実しかないんじゃないかと。
「どうしたら慧人くん、消えるのかな…」
小さく呟くと勇征くんがそっと肩に触れる。
「ゆき乃ちゃん、ぎゅーしていい?」
「え?」
「ぎゅー…って…」
うんともすんとも言わない私を横からふわりと抱きしめる勇征くん。
これがきっと勇征くんが思う女の慰め方であって、私はこの温もりがほんの少し心地よかったなんて。
「今日うち親遅いんだよね。今からうち来る?」
…え?どういう…「ゆき乃ちゃんが本気で慧人のこと忘れたいなら、俺がゆき乃ちゃんのこと奪ってやるよ…」ドキドキするような言葉に勇征くんを見つめあげる。
このまま勇征くんに甘えたら楽、だよね?
「あの…私、」
「マジで俺にしない?全部忘れさせてやるよ?」
なっちゃんに続くモテ男な勇征くんの甘い誘惑。
これにのったら、楽になれ…「ごめん、やっぱり私、慧人くんが好き」…どうしても慧人くんがいい女々しい私は、翌日勇征くんを断ったことを深く後悔するはめになるなんて。