誰もが勝ったと思ったボールは、私達外野に届く前に一つバウンドした。その瞬間みんなが「走れ!」って一気に捲し立てる。ランナー達がここぞとばかりに最後の力を振り絞って全力疾走する。一番最後の慧人くんもホームベースを目指して全力疾走。もう居ても経ってもいられなくて、私はもう一度グラウンドの下に降りていく。振り返ると、外野の大樹先輩が力強くボールをキャッチャーに向かって投げた所だった。
「慧人くんっ、走って走って!!」
みんなの声援に紛れて私も追いかけながら後ろから叫んだ。
ズサー――――!!!ってスライディングをしてホームベースに手を伸ばす慧人くんと、キャッチャーの手が慧人くんの背中に落とされるのがほんの数秒の差で…。
「…―――セーフ!!」
背中に手がつくよりほんの数秒手前で慧人くんの血まみれの右手がホームベースに触れたんだ。
「キャアアアアアアア!!!」
悲鳴にも似た歓声が上がる中、私はペタンとその場に座り込む。みんなに揉みくちゃにされている慧人くんが涙で滲んでボヤけていて。
「おい不良!」
不意にポンっと肩を叩かれて振り返ると大樹先輩。
「よかったな!」
「…うう、先輩…」
「ばーか俺の前で泣くな、彼氏の前で泣けって。慧人!」
大樹先輩がまた馬鹿でかい声で叫ぶからみんながこっちに注目する。私、謹慎中なんだけど…
「大樹先輩!あのこいつ、俺のなんで!」
グイっと慧人くんに引き寄せられてそんな言葉。だけどみんなそんなのわかってました!みたいな顔をしていて。
「やっとくっついたの?みーんな知ってたから、お前らが好きあってること!」
「そうそう、こんな面倒くさい人扱えるの、マネージャーしかいないってね」
え、なんか拍子抜けなんですけど。思わず慧人くんを顔を見合わせるけど…
「いやいやお前ら、俺は別に…」
でた、いつものツンデレ。もう騙されないんだから。私は慧人くんの手をギュっと握る。ズイって一歩近づく私に慧人くんの白い歯がちらつく。
「別に、なに?慧人くん勝ったら私に言うことあるって言ったよね?それ今言って!?」
「…い、まぁ!?」
カアーって慧人くんが赤くなった。