ほんのり笑顔


「…俺も、汐莉がいなくて死ぬ程寂しかった。ナツに負けねぇくらいにな。」


抱きしめたままそんな事を言葉にする樹はちょっとズルいよね。私の気持ち知ったうえでそんな事を言う確信犯なんじゃないかって。

寂しさの奥に愛がある訳じゃないのに、そうやって私を縛り付ける樹の呪縛から逃げたかったのかもしれない、なんて。

スッと5年前より確実に分厚くなっている樹の胸板を手で押して腕の中から出た私は「樹私…彼氏いるから。」余裕に微笑む自分を誰が想像しただろうって。

予想外って顔の樹から離れてまたヒールを鳴らして歩きづらい道を歩いて実家に向かった。

どこで嗅ぎつけたのか、実家の前には翔太とそれから夏喜が壁に寄りかかって煙草を吸っていて。私と樹に気づいて軽く手を上げる。

翔太とだけは5年間連絡を取り続けていたのは、妹みたいに私を心配してくれる翔太の優しさで。それでも会うのは5年ぶり。そして翔太の隣にいる背の高い夏喜と会うのは勿論、話すことすら本当に5年ぶりだった。


「来るなら連絡しろって言ったろ!たく、もー。」


くしゃって優しく髪を撫でてくれる翔太に笑顔が零れる。


「翔ちゃん、ごめんね。」


私の腕を引き寄せてギュっとハグする翔太は相変わらず度肝抜く格好をしている。翔太こそ、東京でお洒落だって言われるような格好なのに。


「ほら、夏喜にも挨拶しろよ。」


ポスって翔太が私を離してそのままそっと夏喜の方へ背中を押した。

ちょっと膨れっ面なのは相変わらずで。上から見下ろす夏喜がそれでも「久しぶり。」小さく笑ってくれた。

無視される?なんて思った私の心をつつくほんのり笑顔にトクンと鼓動が鳴ったなんてーー。