洒落た格好


「懐かしい…。」

「変わってなくない?」

「うん。5年も経ってるのにね。」


景色も建物もほとんど変わってないけど、樹の香りは変わっていることに気付かないふり。


「みんな、元気?」

「みんな、って?」

「…翔ちゃんとか、夏喜とか、」


小さい頃からずっと一緒だった翔太と、それから夏喜。翔太はみんなの憧れで、特に夏喜は懐いていた。優しい翔太とは裏腹に、いつも私に意地悪な夏喜は、正直ちょっと苦手だったあの頃。


「相変わらずだよ、みんな。汐莉がいないって事だけで、それ以外は何も変わってない。」

「そっか。」

「あーでも、東京から篠島に来た奴らもいるかな。」

「東京から?この島に?」

「そ。あっちの生活が疲れたんだって。いい奴らだから、汐莉も話し合うと思う。」


きっとその人達も、東京が似合わなかったんだ。こんなのどかな島になんて来たら、二度と東京になんて戻れないと思う。

私も、最終手段としてこの島に戻る事が頭の片隅にあって。でもそれをしてしまったら今日までの5年間が無駄になってしまうんじゃないかって、そう思っている。

潮の香りのするこの島は舗装されていない道も多く、凸凹な道路をヒールで歩くのは疲れる。

無駄にゆっくり歩いていたら樹がジッと私を見て苦笑い。


「なに?」


首を傾げた私に無言で手を差し出す樹。キョトンとそれを見つめて「え?」もう一度樹を見つめる。


「その靴じゃ島は歩けないだろ。」

「…いいわよ、」

「そんな洒落た格好してる女、この島にはいねぇよ。」


東京でいうオフィスカジュアルばっかりを揃えたからこんな服しかなくって。島にいた頃は考えられない格好かもしれない。でもそれが東京だから。これが普通だから。

だけど不意にバランスを崩して樹に抱きとめられる。途端に心拍数があがって胸の奥が熱くなる。

やっぱり戻ってこなきゃよかった。