ホテル-Happiness-株式会社。
有名な高級ホテルの中で働く俺、片岡直人。
経理課って部署に配属されて早数年。
仲間や上司にも恵まれ楽しく過ごしている。
いつまでもこんな環境が続くものだと思っていた俺に訪れたその「別れ」は、俺の人生の中で一番辛いと言っても過言ではないって、そう言えるものじゃないかと。
女に惚れたのは過去三回。
初恋は小学生の時の担任の先生。
二度目は高校生の時に野球部のマネージャーをしていた一歳上の先輩。
三度目の恋は、桜の舞う暖かい日だった。
その人は、俺が好きだと気づいた時にはもうすでに別の人を見ていた。
最初は仲良くなっていつか自分を見て欲しいなんて願望もあった。
けど、彼女の真剣な想いは俺の気持ちになんか適うはずもなく、片想いから三年後ようやく実ったんだった。
いつしか俺も本気で彼女の幸せを願うようになっていた!ってそう思っていたけど
所詮は偽善。
いつまでたってもこの報われない想いを手放せないでいた。
「え、ちょっと」
困惑した声を出した俺は不安を消したいのか不安になりたいのかその柔らかい腕を掴んだ。
フワっと香る甘い香水は彼女の存在を表しているようで。
俺の鼻を掠めてほんのり胸がキュンとした。
「直ちゃんどうかした?」
いつもと変わらない態度で俺を見上げる彼女ゆき乃は、強めに腕を掴んでいる俺を少し不思議そうに見あげた。
そんなゆき乃の後ろには知らない女性が立っている。
「なに、なんで?や、や、…辞めるの?」
緊張のせいかどうにもどもってしまう俺の言葉に少しだけ顔をしかめるゆき乃は掴まれた腕を上に上げて左手の薬指を俺に透かした。
幸せの象徴とも言えるだろうその輝きにニッコリ笑顔を飛ばすゆき乃に何の罪もない。
それは分かってるけど…
「うん!あたし器用じゃないから仕事と家庭の両立はちょっと。料理もまだレパートリー少ないし掃除や洗濯も時間かかるし。良平は働いててもいいって言ってくれたけどちゃんと良平の奥さんしたいから!」
眩暈のしそうなその言葉に俺はしぶしぶゆき乃の腕を離した。
「それなら言ってくれたらいいのに。俺なにも知らなくてずっとゆき乃と一緒にいれるって思ってたのに」
自然と出てしまった言葉だったけど俺の素直な気持ちでそこにはただ純粋にゆき乃と離れたくないって想いが含まれているんだ。