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「良平から聞いてるかと思ってたよ?」


キョトンとしたゆき乃の視線はすぐに俺の後ろに移って、頬を染める明るい笑顔に変わる。

視線の先にはフロア内に入って来たゆき乃の相手、良平さん。


「良平ってば直ちゃんにあたしのこと言ってなかったでしょ?“俺からみんなに言っておく”って言ってたのに〜…」

「あ…」


しまった、って顔で苦笑いを浮かべる良平さんを俺は睨み上げた。


「悪い悪い!いや〜俺も忙しくってなぁ!お前を忘れてた訳じゃねぇぞ?なかなかタイミングが合わなくてな…悪かったな」


いつもなら何とも思わない事かもしれないけど、今日に限って適当に見えるこの人のノリと言い方にめちゃくちゃ腹がたった。

自分が知らなかったって事実に。


「あぁ俺は所詮その程度の仲なんだ」って思いと「結局そこまで俺に構ってられねぇんだ」って思いが俺の心を支配していて…


確かにゆき乃の幸せを願って、ゆき乃の笑顔は自分でも言葉にできないくらいの宝物だってそう思っていたけれど。

俺の入り込む隙が一ミリたりともないんだってこの現実に、どうしようもなく気分が落ちた。


「あっそーかよ」


一言吐き出すように低く呟いた俺は、そのままゆき乃と良平さんに背を向けて経理課フロアから逃げるみたいに出て行った。

十分すぎる程に分かっていたつもりの俺の心は全然理解できていなくて、今もまだゆき乃の幸せを願うフリして自分の想いを受け止めて欲しいと心底願っているんだ。

まるで祈るようにゆき乃を自分の手で幸せにしてやりたい…と。





「で、何でここなんだよ?」


始業してからまだ1時間とたっていないここ「カフェ;はぴねす」の窓際に寝そべって、俺はいつもの抹茶マフィンとブラックコーヒーを頼んだ。


「てっちゃんだっているじゃんか!」


ブスっ面を浴びせるも大きく溜息をついて俺の背中をポカっと殴る哲也さん。

その手の温もりは想像通りに温かい。


「俺はいいの!香澄に用事あっから」

「何の用事?」

「全くもって直人には関係ねぇ」


ピシャっとシャットアウトされて、又無駄に気分が落ちた。


「哲也そんな言い方。直人さん大丈夫ですか?遠慮なくここにいて下さいね」


哲也さんには絶対勿体無いくらいに俺に優しい香澄ちゃんがホットコーヒーを俺にくれた。