「は?何ですか、あの女!!」
少々お酒の入ったゆき乃ちゃんがテーブルに肘をつけて遠目からガンつけている。
「元カノ、陸ちゃんの…」
「はぁ―――!何で元カノがここに?」
「異動して来たらしいのよ、陸ちゃんの部署に」
説明しているのに何だか自分が言ってるんじゃないみたいに、自分の声が遠くから聞こえる。
莉子は様子を伺っているみたいで何も言わない。
あたしの前で文句を言うのはゆき乃ちゃんで。
「美桜さんいいんですか?」
いいわけないよ。
ほら、陸ちゃんの隣に座ってベッタリじゃん!!
てゆーか、陸ちゃんも何なの?
陸ちゃんの彼女はあたしじゃないわけ?
何であたしをほおっておいてサチコはべらせてんのよっ!!
腹たつ!!!
「うーん、嫌とか言ったらウザクない?」
ゆき乃ちゃんの手前冷静にそう言ったけどあたしの心の中はもう嵐がビュンビュン吹き荒んでいて。
陸ちゃんあたしに気づいて!!
あたしのこと見て!気にかけて!!!
そんな言葉を並べていた。
「先輩、ゆき乃行ってきます!!」
そう言って立ち上がったゆき乃ちゃんは、グロスを塗りなおしてゆっくり歩き出した。
隣の莉子が「ブハッ」って笑って。
「若いね〜」
なんて暢気に言った。
ダン!!
倒れこむようにゆき乃ちゃんが陸ちゃんとサチコの間に無理やり座ったら、黎弥くんがオデコに手を当てて「アチャー」って顔をしたのがほんの少し可笑しかった。
「うわ!ゆき乃、どうしたの?」
「初めまして、ゆき乃です」
ギロンって見るからに睨みを聞かせているゆき乃ちゃんにニッコリ微笑むサチコ。
「悪い、こいつ俺のだ…」
遠慮がちに黎弥くんがゆき乃ちゃんを引っ張って。
簡単に黎弥くんに引き寄せられるゆき乃ちゃん。
「えー黎弥、彼女出来たの?」
「ほっとけ」
「は?知り合い?」
明らかに怒りの矛先が黎弥くんに変わったゆき乃ちゃんの態度が見る見るわかって…
「ふーん、黎弥呼びねぇ。」
「おいおいこんなとこで妬くなって、」
黎弥くんがゆき乃ちゃんの頬っぺを指で軽く摘むと唇を尖らせたまま、
「なによ馬鹿。どこにいたって黎弥のこと独り占めしてたいのに。」
泣いちゃいそうなゆき乃ちゃんを、それでも愛おしそうに見つめて頭を優しく撫でて嬉しそうな黎弥くん。
「分かった、分かった、思う存分独り占めしろって。」
両手を広げる黎弥くんの腕の中に迷うことなく飛び込むゆき乃ちゃんに、ピリっとしていた空気が和んだ。
あたしもあんな風に言えたら少しは楽なのかな?
お酒でも飲めたら、ちょっと酔っ払ってあんな風に絡めたら…