人間なんて、人に言えない秘密の一つや二つ持ってる生き物だ。
「なっちゃん、今日ご飯行かない?」
同じ会社の後輩の朝海。
朝海と付き合って1年がたった。
表情がコロコロ変わる朝海は見てて飽きなくて、正直可愛い。
話す内容も一風変わってて、その発想の良さから企画部でもいい仕事をこなしているようだった。
営業の俺達は企画部で出した案を各社でプレゼンをしてCMを勝ち取りに行く。
「あー悪い。今日、博報道の奴らと飲み会で。若手の忘年会に呼ばれてて…」
「博報道か!それなら仕方無いね。んじゃダメ元で雪乃さんでも誘ってみるー!陸さん残業ならいいなぁー」
「ぷっ!それ陸さんに遠まわしに言うんだろ朝海!まぁでもあの二人ほとんど一緒に住んでるようなもんだからな!俺明日なら何もねぇから!」
「あはは、だって雪乃さんいつも陸さん優先なんだもーん!明日はあたしダメなの!野暮用で!」
「…俺別に高価なもんより、朝海の手料理とかで全然いいよ?」
「…考えとくね!」
「はは、イヴは空けとけよ!」
「うんっ!」
俺の腕に絡まっていた朝海は楽しそうに鼻歌を歌いながら自分のフロアへと戻っていく。
世間一般的にいう、恋人って関係。
俺と朝海は至って普通の恋人って奴。
この会社に入社してから俺は二度恋をした。
一人は朝海。
そしてもう一人…―――
「雪乃さん、今夜ご飯どうですか!?陸さん残業でしょ!!なっちゃん博報道に取られちゃって寂しいですー」
企画部の前、朝海が雪乃さんの腕に絡み付いてやっぱりな誘い。
世間一般的に言う、陸さんの恋人である雪乃さんと朝海は同じ部署の先輩、後輩に当たる。
朝海の発想の良さを引き出したのも雪乃さんで、自分の部署に引き抜きしたのも雪乃さん。
陸さんっていう、仕事のできる恋人がいて、朝海が言うに二人は理想のカップルだって。
「あはは、夏喜くん飲み会?仕方ないなぁ、陸が残業終わるまでなら付き合う!」
「マジすか?やった!陸さんになるべくゆっくり残業してくださいって言ってきます!」
「ぶっ。陸、朝海ちゃんに甘いからなぁ!」
意気揚々と企画部を出ていく朝海の後ろ姿を目で追っていたであろう雪乃さんが俺の存在に気づいて目を細めた。
軽く手を振ってるから俺も振り返す。
理想のカップルねぇ…。