高校生活最後のダンパ。
文化祭の後夜祭で恒例となったダンスパーティー。
毎年夏の終わりに後夜祭の申し込み合戦が始まる。
「今年で最後か…」
長かった夏休みも終わり、二学期の中間テストを間近に控えた私達は、夏休みボケでまだまだいつもの生活に馴染めずにいた。
それでも時間は当たり前に止まってはくれなくて。
頬杖をついて校庭を見下ろしながら呟いた私に、「なに哀愁漂わせてんだ?」隣の席の黎弥がニヤっと笑いながら言った。
「だって最後だよ。もうこうしてみんなで馬鹿やるのも…」
「まぁそうだけど…」
「ダンパ…今年は出ようかな…」
強制じゃないから参加しない人もいて。
私は二年間不参加だった。
だって…
「え、お前出んの?」
「うん。最後ぐらい、思い出作りたい…」
「ふうん。誘ってやろうか?」
…それは、本心なんだろうか?
黎弥とは仲良くさせて貰ってるから友達って感覚で。
背が高くて人懐っこい黎弥は女子からもモテル。
ちょっとおバカなところも含めてモテル。
私も黎弥のことは好きだけど…
「汐莉ちゃん聞いてよ!なっちゃんまたダンパ断ってんの!!」
同じグループの雪乃がうちのクラスのボス的存在である堀夏喜を引き連れて教室に戻ってきた。
だるそうな顔で黎弥の後ろの席に座る夏喜は、その美形のせいでめちゃくちゃモテル。
金メッシュの入った髪を靡かせてグダーっと机に寝そべった。
「俺の勝手だろ、雪乃〜」
「そうだけど、いったい何人女泣かせたら気がすむの?」
「知らねぇ。勝手に泣いてるだけだろ…」
「うわ、聞いた!?今の発言!顔がちょっとかっこいいからって、なっちゃん中身は悪魔だよ!女の敵だ!」
わーわー喚く雪乃を、さも面倒そうな顔で見ている夏喜は「黙んねぇとキスすんぞ?」…一言で雪乃を静めた。
大きく一歩下がって口を掌で隠す雪乃にクスリと微笑む私。
「卑猥!」
そう言って私の後ろに隠れる雪乃に呆れた笑みを浮かべる夏喜。
「ダンパ、雪乃は誰と出るの?」
「わたし…う〜ん…」
まぁ、知ってるけど。
雪乃の片想いの相手は。
「どーせ勇征だろ!」
黎弥に言われてプウっと頬を膨らませる雪乃。
「どーせってなに?別に誘われてないし今年も…」
「自分から誘えば?勇征まだ空いてるって言ってたよ?」
夏喜がそう言って。
「…がっついてないかな?女から誘うのって…」
「雪乃が誘わなきゃ取られちゃうんじゃねぇか?勇征だってモテルし…」
「黎ちゃん!もし勇征くん取られちゃったら雪乃と出て!!!」
「…お前なぁ、俺様をキープする気?」
「だってぇ!」
てへって笑う雪乃にあきれ顔を飛ばす黎弥。
でも次の瞬間その視線が私に飛んできて。
「んじゃ雪乃と勇征がうまくいったら俺は汐莉誘おうかな!」
黎弥の言葉に夏喜を含めた全員の視線が私を捕らえた。