「夏喜!話があるっ!今日は逃がさないから!!!」
走って夏喜の前まで行った私をちょっと驚いた顔で見ていて。
「どうしたの?」
思いの外優しい声に大きく深呼吸をした。
「あのねっ…」
「ダンパ?俺と出る気になった?」
ニヤリと口端をあげる夏喜はいつもの余裕たっぷりな夏喜で。
そんなことにすらドキドキする。
なに考えてるか分からないちょっとミステリアスな夏喜だけど…
「ずるい、私の台詞!ずっと夏喜のこと好きだったの。黎弥は断った。高校最後のダンパ、夏喜と踊りたい!」
「ど〜しよっかなぁ!」
「…な、夏喜?」
「キスしてもいい?」
答えになってない夏喜の問いかけに、思いっきり動揺するけど。
「…ど、どうぞ」
そう言って強めに目を閉じる。
夏喜の手が私の肩に乗っかってゆっくりと気配が近づく…
心臓が笑っちゃうぐらい脈打っていて…
「緊張しすぎ、力抜いて…」
そんな夏喜の声がしたすぐ後、柔らかい温もりが唇に触れた。
触れた瞬間夏喜の腕が私の腰に回って身体を引き寄せられる。
わけも分からず目を閉じる私に、チュって小さなリップ音がして夏喜の温もりが離れた。
「…苦しい…」
息を止めていたせいで思わず大きく息を吸い込む私を見て、夏喜が楽しそうに笑っている。
「今時キスで息止めんの古いから」
ポンポンって頭を撫でられたけど。
「汐莉の初キス貰っちゃった」
「初キスなんて言ってないよ」
「どう見ても初めてだろ、その反応」
「……知らない」
「素直じゃないんだから。いいよ、ダンパ出てやるよ、汐莉と」
「えっ?」
「それ言いに来たんでしょ?」
「うん」
「俺それ待ってたし」
「そうなの?」
「そうだよ…」
「よかった…」
後から聞いた話だと、雪乃の言う通り夏喜は黎弥の想いを知ってたから、色んな躊躇いがあって私に強気に来れなかったって。
もっと早く黎弥に伝えていたら?って思うけど、きっとこれが今の私の精一杯なのかもしれないって。
はれて夏喜の彼女になった私は、夏喜のキスに慣れるのに毎日必死で。
「うわ、何だよこれ!見て汐莉!」
差し出されたスマホの画面には雪乃と勇征くんのラブラブショットなインスタ。
勇征くんのアヒル口がピタッと雪乃の頬っぺたにくっついていてめちゃくちゃ幸せそう。
あの日雪乃も勇気出して勇征くんを誘った事ですぐに付き合い出した2人。きっと勇征くんも加納くんの気持ちを知っていたから一歩踏み出せずにいたんだろうな…って、ちょっとだけ黎弥の想いに重なる。
「俺達もやる?」
「は?やらないよ!」
「だよな!」
「…載せなきゃいいよ…」
人様に見せるなんてとんでもないけど、夏喜のことこれから信じていくって決めたから、私も前より素直に気持ちを伝えていこうって思うんだ。
雪乃と黎弥が教えてくれた大事なことを、ちゃんと守っていくからね。
*END*