その日を境に、私は必然的に黎弥の彼女ってレッテルが貼られた。
「汐莉ちゃん、いつから黎ちゃんのこと好きだったの?」
文化祭当日、後夜祭を前にして突然雪乃に聞かれた。
瞬きを繰り返す私をジッと見つめる雪乃。
「え?」
「…わたし汐莉ちゃんはなっちゃんのこと好きなんじゃないかって密かに思ってたんだけど外れちゃったなぁ〜」
「…どうして夏喜?」
「いつも見てたように見えたけど。汐莉ちゃんの視線がなっちゃんに向かっているように…。違った?」
どうしよう。
ドクンっと胸が脈打つ。
雪乃にバレているなら、夏喜や黎弥にさえバレているのだろうか?
無言で俯く私を見て雪乃がポンっと背中を押す。
え、なに?
「雪乃?」
「やる気スイッチ押してあげる!ポチっとね」
「え、雪乃?」
背中を指でポチっと押す雪乃に困惑しながらも次の言葉を待つ。
「黎ちゃん、気づいてるよ。汐莉ちゃんの気持ち。俺が強引に押したからかな?って。いつも夏喜のこと見てるのも気づいてたしって。なっちゃんもね黎ちゃんが汐莉ちゃんを好きなこと分かってて身を引いたんじゃないかって…。黎ちゃんなりに悩んでた。高校生活最後のダンパは好きな人と出ようって言ったじゃない!わたし達みんな勇気出して頑張ったの。汐莉ちゃんあのね、なっちゃんがダンパの誘い全員断ってた理由…汐莉ちゃんと出たいからだよ…」
「どうしよう…私、どうしよ…」
泣きそう。
自分の弱さのせいで、みんなを傷つけてる。
「ポチってしたからもういけるよね?」
「いけないよ、今さら…」
「黎ちゃんの勇気、無駄にしちゃダメ!ね?」
「でも…」
「大丈夫、黎ちゃん地味にモテルし!すぐ女できるよ!高校最後だよ、ガンバロ!」
ニッコリ雪乃が微笑んだ次の瞬間「雪乃ちゃん!」聞こえたのは勇征くんの声。
「あ、勇征ちゃん!」
「写メ撮ろうよ?ツーショ!インスタに載せるから」
「撮る!撮りたい!」
スマホ片手に雪乃の傍に来た勇征くんにそのまま連れて行かれてしまった。
でも、幸せそうな二人の後ろ姿に、すっかり消えてしまっていたやる気が湧き起こってくる思いだった。
みんな勇気出して頑張ってるんだって。
友達以上の気持ちがないのに黎弥の彼女って言われるのも、失礼な話だよね。
「よしっ!」
気合いを入れて私は校内にいるであろう黎弥を探した。
思いの外すぐに見つかる黎弥。
B階段の溜まり場でみんなで話していた黎弥が私に気づいてそこから抜けだした。
「どうした?」
「あの…」
「おう」
「ダンパなんだけど…」
そこまで言うと、黎弥の顔から笑みが消えた気がした。
でも言わなきゃダメ。
いつまでたっても前に進めない自分はもう、卒業したい。
「…ごめんなさい!やっぱり私、黎弥とダンパ出れない。どうしても諦められない人がいるの、だから本当にごめんなさい!」
ガバリとその場で頭を下げた。
そんな私の肩に手をかけて頭を上げさせる黎弥。
見つめる瞳は真剣。
「分かったよ。つーか言うの遅くねぇ?お陰で他の女探すことできねぇじゃんかよ」
コツって痛くないゲンコツが私のコメカミに当たる。
こんな時にまで優しい黎弥を選ばなかったことをいつか後悔するん日がくるのだろうか?
「本当にごめんね?」
「いいーって、ずっと待ってたし、”ごめん”って言われること。これで俺も前に進める…ありがとうな」
クシャクシャって私の髪の毛を撫で回す黎弥に涙が出そうになってしまう。
でも泣かない。
泣きたいのはきっと私より黎弥の方。
「黎弥…」
「ほら早く行けよ。夏喜なら屋上で塞ぎ込んでたぞ?」
ポンって雪乃みたいに背中を押してくれる黎弥。
本当にありがとう。
「ありがとう、本当にありがとう!」
黎弥に背中を押されて屋上まで走った。
廊下は走っちゃダメだけど、今だけはごめんなさい!
一世一代の大告白だから。
バタン!と重たいドアを開けると外からの光で目が眩みそうだった。
夕焼けに染まった空をボーっと眺めている夏喜が、ドアの開いた音でこちらを振り返る。