「大事な話がある――――。」
深刻な顔でそう告げた目の前の恋人、片岡直人。28歳の誕生日を二か月後に控えた4月。
30歳までに結婚したい!って言っていたからか、私は瞬時にプロポーズだ!ってそう思った。だっていつにも増して緊張の面持ちに見える直人。そうそう緊張することのない直人が一生に一度のプロポー…
「ロスに転勤になった。一週間後に発つ。ずっと夢だったんだ、あっちの事業を学ぶこと。転勤願い出しててやっと通った。だからこんなチャンス逃すことはできない…―――、雪乃?」
そこまで言い切って漸く顔を上げた直人は、固まっている私の名前を呼んだ。だって急にそんなこと言われても分からない。
頭も気持ちも、なにもかもがついていかない。
キュっとテーブルの上の手を握る直人に視線を絡ませる。
「正直死ぬほど悩んだ。雪乃を一緒に連れていこうかって…。でも、できない。俺にはできない。雪乃だって中間管理職でやっと自分のつきたい部署に配属されたばっかりで、そんな今が大事な雪乃の人生を俺の為に壊すなんて…できない。」
苦し紛れに気持ちを吐き出す直人は見たこともない複雑な表情だ。
「一度あっちに行ったら日本にいつ帰ってこれるかは分からない。俺じゃ決められないし、全部学んでから戻りたいって思ってる。3年になるか、5年になるか…10年になるか…―――そんな先の未来が見えないのに、待ってて欲しい…なんて言えない。自分の夢の為に行く俺を、待ってて欲しいなんて…そんな勝手な事はやっぱり言えない。」
…――――一緒に連れて行ってもくれず、待っていることもできない。それなら私は、
「自由に生きろ。雪乃の好きなように。いい奴が現れたら好きになって幸せ掴んで欲しい…。」
…分からない。
「な、おと、さんは?」
「俺は…―――仕事の事しか考えないよ。」
付き合って3年。自分でも呆れるぐらい直人が大好きだった。他の男なんて1ミリも目に入らないくらい直人に夢中で、直人しかいなくて、直人の生き方全てを尊敬していて心から愛してた。
この先の未来も変わらず傍にいるんだと信じて疑わなかった。
ずっとずっと直人だけ―――――――――