―――泣き虫な女は嫌いだ。
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4月上旬、大安吉日。天気は晴れ。絶好の結婚式日より。ここ最近は雨が多くまだ梅雨入りしていないはずなのにジメジメした天気が続いてたけれど、どうやら今日のカップルは日頃の行いがいいらしい。
インカムを付け直していよいよ始まる式に気合を入れる。チラリと受け付けに視線を送ると綺麗に着飾ったネコ、もとい後輩の立花朝海がこれでもか!ってくらいの笑顔で祝儀を受け取っている。思わず吹き出しそうになるのを堪えて披露宴会場へと移動する。
だけどその時だった。インカムに先輩からの声。
【雪乃。青山くんインフルエンザで今日無理って連絡入った。】
…はっ!?嘘でしょ!?青山かなりのお役目なのに。だ、けれど当日トラブルもなんなくこなさないと一流のウェディングプランナーとは言えない。ちょうど受付業務を終えたネコの所に行くとちょっと疲れた顔で微笑んだ。
「雪乃さん!」
「ネコ緊急!歌歌える人、いる?」
「と、言いますと?」
「青山、インフルで。友人代表で一曲披露するはずだったんだけど。」
「ぶ、ダサ。あ、いますよ!ちょうどいいのが。」
基本業務が企業の方の受付をしているネコは派手な見た目通り、顔が広くて色んな情報を持っている。この子以上の情報屋は我社にはいないってほど、社員のありとあらゆるプライベートを把握しているそんなやり手だ。
「一緒に来てくれる?」
「もちろんです!」
「哲也さん。立花と確保しに行ってきます。」
インカムのマイクをオンにしてそう言うと耳元で【了解。】哲也先輩の声が届く。そんな私に「いいなぁそれ。あたしもてっちゃんとインカムでイチャイチャしたいです!」いやこれ仕事だからね。
苦笑いの私を連れてネコがちょうど見学に来ていた研修生の1人の腕を掴んだ。
「ゆせくん、出番だよ!」
ゆせ?変な名前。私とネコを交互に見て、「えっ?」て困った声を出すゆせ。私はそのまま彼の背中に手を回す。
「プランナーの保科です。式の本番で歌う青山くんがインフルで来れないから代わりに一曲歌ってください。お願いします。」
「え、僕が、ですか?」
思いっきり目をかっぴろげているゆせにネコはニッコリ。
「ゆせくん、めっちゃ歌上手いじゃん!」
「…いやでも、」
「ごめん時間ないの、とりあえず着替えて!青山はピアノ弾き語りだったんだけど、ゆせくんはピアノ弾き語りはできる?」
「…一曲だけなら、」
「よし、じゃあそれで。」
ポンっと背中を叩くとゆせの顔が緊張に変わった。だけど私を見て一言。
「あの、余興も僕達がやるんですか?」
ゆせの言葉に小さく苦笑いを零した。