嘉くんがどうのこうの、じゃない。
「さち子の口車にまんまとのって、見てて愉快だった。好きでもないのに、本気になっちゃって。ほんと馬鹿みたい!」
嗚呼、なんだそっか。
「健太に相手にされなくて、悲しかったんでしょ?」
「は?何言ってんだよ!!そんな訳ねぇだろ!!」
「じゃあどうして私が嘉くんを好きな事が分かったの?自分も同じ想い抱えてたからでしょ??健太が好きだったんでしょ!?」
どうして愛が憎しみに変わってしまったの。
「違う。そんなんじゃない。」
でも、そう言ったアイリの声は震えていて、あきらかに動揺しているのが分かる。
恋する視線は、恋を知っている人にしか分からない。
「もう終わりにしよう、こんな無意味な事。」
「黙れよっ!!!今度は本気で刺す!それ以上言うなら刺すっ!!!」
バタンっとドアが開いて、ぜぇぜぇ肩で呼吸をしている健太がこの部屋に入ってきた。
後ろには陣がついている。
たぶん陸が健太に変わって未来の相手をしているんだろうって。
「朝海っ!!!!」
ネコに気づいた健太はナイフを持つアイリを恐れることなくネコの傍まで行くと着ていたジャケットを脱いでネコの肩にかけた。
「健太、ネコ記憶が、」
「え?記憶?」
虚ろなネコの頬をパチパチする健太は、ハンカチで刺されたネコの腕を止血する。
「朝海、俺の事見て。」
真っ直ぐと視線を合わせた健太が、次の瞬間優しく言ったんだ。
「…愛してる、朝海。」
優しく撫でてそのまま唇を重ねた――――。
いつもなら大騒ぎしそうな陣も、この時ばかりはそっと目を逸らす。
ポロリとネコの瞳から涙が一粒零れ落ちて。
濁っていた目がハッキリと見開いた。
「健太…。」
小さくでも、ハッキリと健太の名前を呼んだんだ。
「心配させやがって。」
ふわりと抱きしめる健太に、隣のアイリがワナワナと震えている。