高熱の俺を病院に連れて行って、家まで送ってくれたゆき乃さんは、俺をベッドに寝かせて家から出て行った。
不意にガチャって鍵をかける音がしたから帰っちゃったんだと思って慌てて怠い身体を起こしてドアを開けようとしたら、たぶんだけど外からドアに持たれて誰かに電話をしているような話し声が聞こえて、咄嗟に俺は耳を当ててその会話を聞いたんだ。
【あの樹、なっちゃんとは間違いは起こらないってこの前も言ったよね?】
【ごめん、樹の言ってること分かんない。なっちゃんは大事な友達だよ?疑うなんておかしい。とにかく!!今夜はなっちゃんに付き添います!また連絡するから。】
樹が俺とゆき乃さんの仲を疑っているのは重々承知だ。
いつからか、樹にゆき乃さんを紹介して欲しい…と頼まれるようになった。
その度に俺ははぐらかして誤魔化してきた。
あの人の…ゆき乃さんの魅力を分かっているのはこの俺だけだ!と。
だからゆき乃さんを自分の彼女にしてもなお、俺って存在に悩まされている樹が目に浮かんで少し笑えた。
でも気になったのはそこじゃない。
――なっちゃんとは間違いは起こらない――
それだけが俺の頭にこびりついて離れない。
もしも俺がゆき乃さんに対してそういう気持ちを出したらどうなるんだろう?
今の今まで押さえつけてきたこの気持ちをゆき乃さんにぶつけたら、受け止めてくれる?
樹よりもゆき乃さんを分かっているのはこの俺だよ。
ねぇ、そうでしょ?
そんな事を思いながらもタオルドライしてくれていたゆき乃さんを振り返ったら、俺を後ろから覗き込んでいたゆき乃さんの首筋に薄らと紅い痕があるのを見つけたんだ。
樹のやろ、ゆき乃さんにマジで手出しやがって、クソ!
「もういい。後は自分でやる。」
そう言い放って俺はゆき乃さんに背を向けた。
だけどゆき乃さんはそんな俺を気にすることなくキッチンへと移動して俺が食いたいって言った粥を作り始めた。
…あーもう!!!抱きしめてぇし!!!!!
ギシッて音にゆき乃さんが振り返るから俺はその肩に腕をかけて後頭部を固定するようにして抑えきれない気持ちを乗せるかの如くゆき乃さんの唇に自分のを重ねた―――
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