「自分も、長野から出てきてこっちで一人暮らしなんで、もし今度独りで寂しいって時はいつでも相手します。女の人のそーいう複雑な気持ちは分からないけど、…雪乃さんの話を聞くのは楽しいです。」
イケメン澤本くんはマスターにピッタリくっついて指導を受けながらも、私の愚痴を拾ってくれていて。
「澤なつー。それナンパ?」
「いや、そんなんじゃないです!」
「あーお前、雪乃ちゃん可愛いからって職権乱用はダメだから!」
「いやいや、マスター、本当にそんなんじゃ、」
何だか可愛くて、澤本くんが。優しい人、なんだなぁーって嬉しくなる。
「マスター!私そんなにモテないから。でも澤本くんとはお友達になりたい。お料理も食べてみたい!」
「それならもう、お安い御用です。」
「うん!」
結局、帰ろうと思った私を引き止めてくれたマスターに甘えて、この日も時計の針がてっぺんを超えるまで居座ってしまった。でもどの道明日は土曜日で仕事は休み。アパートまでもここから近いしどうって事ない。
「あ、雨…。」
勘定を終えてドアを開けると、今まで気づかなかったのが嘘のよう、外はどしゃ降りだった。今日に限って折りたたみ傘も忘れた。こりゃ仕方ない。家までダッシュでそのままお風呂直行だなぁ!なんて思って「マスターご馳走様です!」頭を下げて表に一歩出た瞬間、「雪乃さん!」手首を掴まれた。
「まさか走って帰るつもりじゃ?」
ちょっと呆れ顔の澤本くん。ええそのまさかだけど、なにか?
「傘忘れちゃって。家まで近いの私!だからそのままお風呂直行すれば大丈夫だよ!」
「ダメですよ。風邪引きますよ、さすがにこの雨じゃ。」
そう言うと、澤本くんは私の手を握ったまま暖簾の奥に顔を向けた。
「マスター。ちょっと送ってきます。雨すごいので。」
「!!!い、いいよ、大丈夫!私一人で歩けるし、傘!傘だけ貸してくれたらもうそれで!」
さすがにイケメンに送ってもらうのは身が引ける。
「でもかなり飲んでたし。心配なので家まで行きます。」
そう言うと澤本くんは上着を羽織って傘一本を空に向かって広げるとそのまま今度は私の肩を抱いた。
ちょっと、ちょっと、それ反則!
なんて脳内パニクりそうになるものの、「ほら、行きますよ。」何でかそんな言葉にすらドキッとしたんだ。