episode 02


「お先に失礼します」



そう言ってバイト先を出た。

冷房のかかった店内とはうって変わって暑い。

夜でも気温があまりさがらない夏、早く涼しくなってくれないかな〜なんて思う。

階段を下りると、下の駐車場にデカイ銀のバイクを止めて座っていた黎弥。

あたしの足音に気づいて顔を上げると、すぐに目があった。

だけど手にはスマホが握られていて、険しい顔して喋ってる。



「野暮用入ったから切る。後は頼んだぞ、翔太」



一方的に会話を終わらせてスマホをしまうと、すぐにあたしに向って微笑んだ。

立ち上がってあたしの所へ駆け寄ると「お疲れ、ゆき乃ちゃん」なぜかふわりと抱きしめられる…

キュンって胸が高鳴った。



「何かあったの?」

「なんで?なんもねぇよ」

「でも今電話してた…」

「あー今日走ってっから、下が喧嘩吹っ掛けられただけ。たいしたことねぇから。…――それよかゆき乃ちゃん。俺に抱きしめられてて嫌じゃねぇの?なんかこのままだとチューしたくなって困っちゃうんだけど…」



言いながら顔を覗き込む黎弥に、あたしまで困ってしまう。

抱きしめられて吃驚したけど、嫌じゃないのは事実で。

チューもされたら嫌じゃないって分かってる。

でも何も言えない。

イエスもノーも言えない。

だから無言のあたしを見て黎弥が一歩踏み込んだ。



「俺と付き合ってよ、ゆき乃ちゃん…」



え?

見つめる黎弥は真剣。

いつもみたいなふざけた笑顔なんて封印しちゃってて…真面目な顔も、それはそれでかっこいい。

付き合うってどんな?

暴走族の頭やってる人と付き合うってどんな?

喧嘩とか普通にするし、いけないこともしてる?

それってあたし大丈夫?

ついていける?

好きって気持ちだけあれば信じられるもの?


…――分からない。

黎弥達が何をどこまでやっているのか、あたしがそれをどこまで信じられるのか、何一つ分からないよ。