「お先に失礼します」
そう言ってバイト先を出た。
冷房のかかった店内とはうって変わって暑い。
夜でも気温があまりさがらない夏、早く涼しくなってくれないかな〜なんて思う。
階段を下りると、下の駐車場にデカイ銀のバイクを止めて座っていた黎弥。
あたしの足音に気づいて顔を上げると、すぐに目があった。
だけど手にはスマホが握られていて、険しい顔して喋ってる。
「野暮用入ったから切る。後は頼んだぞ、翔太」
一方的に会話を終わらせてスマホをしまうと、すぐにあたしに向って微笑んだ。
立ち上がってあたしの所へ駆け寄ると「お疲れ、ゆき乃ちゃん」なぜかふわりと抱きしめられる…
キュンって胸が高鳴った。
「何かあったの?」
「なんで?なんもねぇよ」
「でも今電話してた…」
「あー今日走ってっから、下が喧嘩吹っ掛けられただけ。たいしたことねぇから。…――それよかゆき乃ちゃん。俺に抱きしめられてて嫌じゃねぇの?なんかこのままだとチューしたくなって困っちゃうんだけど…」
言いながら顔を覗き込む黎弥に、あたしまで困ってしまう。
抱きしめられて吃驚したけど、嫌じゃないのは事実で。
チューもされたら嫌じゃないって分かってる。
でも何も言えない。
イエスもノーも言えない。
だから無言のあたしを見て黎弥が一歩踏み込んだ。
「俺と付き合ってよ、ゆき乃ちゃん…」
え?
見つめる黎弥は真剣。
いつもみたいなふざけた笑顔なんて封印しちゃってて…真面目な顔も、それはそれでかっこいい。
付き合うってどんな?
暴走族の頭やってる人と付き合うってどんな?
喧嘩とか普通にするし、いけないこともしてる?
それってあたし大丈夫?
ついていける?
好きって気持ちだけあれば信じられるもの?
…――分からない。
黎弥達が何をどこまでやっているのか、あたしがそれをどこまで信じられるのか、何一つ分からないよ。