「分かってるよね、俺がマジでゆき乃ちゃん好きなの。俺こんなんだけど、人を想う気持ちは間違えてないから…信じてよ俺のこと。何かあったら俺が守るから…」
素敵な告白だと思った。
だけど、何かあったら遅いんじゃないかって。
黎弥がいる世界にこんなあたしが一歩踏み込む勇気なんて、今更持てない。
それがあたしなの。
「…ごめんなさい」
たった一言そう言った。
「なんで?他に好きな奴いんの?」
引かない黎弥に喜びすら感じるっていうのに、素直になれない。
怖いんだ。
どうしたらいいのか分からなくて。
嘘ついて好きな人がいるって言えば納得する?
「…そうじゃない」
「俺が嫌い?」
…苦しい。
好きだから怖い…なんて感情、男の黎弥に伝わるわけない。
族の頭やってる黎弥に、怖いなんて…きっと分からない。
嫌いになんてなれっこないけど、好きとは言えない。
応えられないあたしに「そっか、分かった」小さく黎弥が答えた。
その瞬間、ズキっと胸が痛くて。
自分で突き放したくせに、それでも黎弥が離れてしまうことがこんなにも悲しいなんて。
ばかみたい、あたし。
「ごめんなさい…」
「謝んなくていいよ。俺が勝手に好きなだけだから!」
それなのにあたしに対して優しくしてくれる黎弥を、やっぱり心の中では好きだと思ってしまう。
こんな矛盾した気持ち、初めて。
「帰るか、送る」
ポンって背中を軽く叩くと、黎弥はあたしをバイクの後部座席に抱きあげた。
いつも送ってくれるのはバイクで。
このバイクに乗れるのも、今日が最後かもしれない。
走り出した後ろで、「ごめんね」「ごめんね」って心の中で何度となく呟く。
あたしが心で呟くたびに、どうしてか黎弥がギュっとあたしの腰に巻きつけた手を上から握り締める。
心が痛い。
どうしてあたしは、大好きな人を信じきれないんだろうか…
そんな疑問に答えが出るはずもなく、あっけなく家の近くでバイクが止まる。
住宅内だからって、いつも少し手前の小さな公園でバイクを止めてそこから家まで歩いて送ってくれる黎弥。
ただ隣を歩いてくれる黎弥をこんなにも愛おしく思うのに…
「どうかした?」
そんなセンチなあたしを覗き込む黎弥はいつも通り。
あたしが断ったことなんて忘れているみたいな、そんな顔。
「黎弥…」
「ん?」
「…うううん、電話大丈夫?」
気づいてた。
ずっと黎弥のスマホがポケットで振動していることに。
やっぱりチームで何かあったんだって。
「ゆき乃ちゃんが気にすることなんて一つもねぇから」
ポンって頭に手を乗せる黎弥。
大きなその手に、触れたい…
でもきっと触れたら戻れないよね。
そんなとこまで弱気なあたし、はなっから黎弥に似合わない。