あたしを乗せたバイクは黎弥を確認するなり、いきなり物凄いスピードで走り出す。
黎弥が今日あたしのバイト先に来なかったこととこうして暴走していることが全てであって。
もうこの男達にどうにかされてもいいやって気分にすらなりつつあった。
今日も黎弥と二人で帰れるんだって信じていたあたし。
ほんとばか。
結局黎弥はJSBの七代目で、あたしとは住む世界が違う。
こんな気持ちになるくらいなら、あのファミレスでバイトなんてしなきゃよかった。
そうしたら黎弥と出逢わなかったのに。
だけどいつだってあたしを助けてくれるだろう黎弥が車から降りてバイクであたしを追いかけてきた。
それに気づいてこっちも人気の無い倉庫街に連れて行かれた。
バイクから下ろされて手首を捕まれる。
「おとなしくしてろよ」
「…...」
倉庫の中に入れられたらどうなる?
あたしを追いかける黎弥もバイクから降りて全速力で走ってくる。
「触るなクソが!返せよ俺の女っ!」
グッと反対側の手を掴まれて、力任せに黎弥に引き寄せられた。
黎弥の温もりに包まれて安心したら自然と涙が溢れた。
「黎弥…逢いたかった…」
「…心配させやがって。…もう安心しろ」
「…...」
ボソッと言われてドキッとしながらコクっと頷いた。
黎弥の顔を見たら色んな想いが溢れてしまいそうで。
あんなに信じられないと思っていたのに、たった一人であたしを助けに来てくれたってことで、あたしの中の迷いが全部吹っ飛んでいった気がする。
あたしを少し離れた場所に隠して黎弥は一人喧嘩をしに行った。
あたしを守ってくれる大きな背中が目に焼き付いて離れない。
黎弥一人であの人数倒せるんだろうか?
七代目の頭張ってるぐらいだから強いのかもしれないけど、本当に大丈夫?
きっと笑いながら戻ってくる、そんな気がする。
今ならあたし、黎弥のこと信じられる。
こんなあたしのこと守ってくれる人なんて、世界中どこ探したって黎弥しかいない。
「ゆき乃…」
聞こえた声に目を開ける。
膝を抱えて小さくなっていたあたしの前に黎弥がしゃがみこんだ。
ほらやっぱり笑ってる。
でも何かいっぱい怪我してる。
「黎弥…大丈夫?」
「痛くねぇよこんなの。それよりお前、バイトの時間23時って言わなかった?」
「…え?」
「今23時だし。たくこいつ…」
…何となく黎弥の口調が一昨日までと違う?
とりあえずあたしは、バイトのあがり時間を間違えて伝えていたみたい。
だから暴走してたの?
「隣にいた人だれ?」
「女。けど嘘の。ゆき乃に手出されたくねぇから別の女はべらせといた。全く役に立たなかったけどな!」
ケラケラって黎弥が笑う。
笑えないよ。笑い事じゃないよ。
「ベッタリだった、黎弥に。肩抱いちゃって、すごく嫌だった」
「へぇ、今日はヤケに素直だな」
面白ろおかしいって顔で黎弥が微笑む。
腫れた頬は痛々しい。
赤くなってる手も痛そうだし、見ているのは正直辛い。
「黎弥だって、いつもそんな喋り方じゃないよ」
「そうだっけ?いいじゃんもう、ゆき乃が俺の女になったんだから!」
突拍子のないことを言われたんだ。
思わず目を大きく見開いて黎弥を見るあたしの頬に手を添える。
笑いながら顔を寄せる黎弥。
これは、やばい!
このままだとあたし、奪われる?
「待っ…」
「黙ってろ、いーから」
チュ…小さな音を立てて重なる唇。
あたしの初キス。
大好きな黎弥が初めての相手でよかった。
わけも分からずされるがまま唇を重ねていると黎弥の舌があたしの唇を無理やりこじ開けるようにして入ってくる。
ニュルリと柔らかいその感触にゾクッとして口を開ける。
どこでどうやって呼吸したらいいのかも分かんないけど、黎弥の舌があたしの口の中で動いて絡み取られたからそのまま軽く動かしてみた。
それが正解だったのか、黎弥の腕があたしの腰を抱いて強く引き寄せられる。
しばらくそうやって舌を絡ませあっていたら、黎弥の腕が腰を触り始めて…
「黎弥…」
小さく名前を呼んだらようやく唇が離れた。
目の前には妖艶な顔をした色気たっぷりの黎弥。
最高潮、胸がドキッと高鳴った。