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私は池袋で情報屋をやっている。似たようなことをしている男がいるだなんて、そんなの私がよく知ってるんだからわざわざ言わないでほしい。その男は新宿だった?だから言われなくても知ってるんだってば。
カチャリ。わざと音を立ててカップを置くと、こちらの感情が伝わっているのかいないのか様子を伺いながらも男は喋り続ける。ただでさえこの男が私のところへ来た経緯にイラついているというのに。もしかしてこれも嫌がらせのうちなのだろうか。
並べ立てられる言葉を聞き流していると、男の向こうにいた影が遠慮がちに動く。
『すまない。余計なことをしてしまったようだな』
「セルティはただ頼まれた仕事をしただけなんだから謝る必要なんてないよ。むしろ巻き込んで悪いね」
『臨也に返してこよう。もちろん請求は倍にして全部臨也で』
「いいね、それ。ならついでにこれも頼まれてくれる?」
PDAで会話をする彼女に白い封筒を渡す。
臨也にか?と不思議そうに首を傾げたセルティだったが、すぐに否定した。
「これは秘書の波江さんに。といっても直接は渡せないだろうから臨也に渡してもらって構わないよ」
『いいのか?勝手に見られたりとか…』
「見られた方がむしろ都合がいいの」
ニヤリと笑った私を見て、セルティがそれ以上聞いてくることはなかった。そしてまだ喋り続けていた男を情報で脅してさっさと事務所を出てもらう。あんな男を送り込んでくるなんて、新宿の情報屋は余程暇なのだろうか。送り返されたあの男は解放されるのか、それとも別で脅されて縛り付けられるのか。考えてみたところで私には何の関係もない。
「借りを作るのは御免だけど…忠告はありがたく受け取っておくよ」
少し冷めてしまったコーヒーを一気に流し込んで、パソコンへと視線を移した。
*
「おや?仕事を頼んだ覚えはないんだけど」
それにしてもはやかったね、と笑えば首のない彼女はPDAに文字を打ち込み始める。これが彼女とコミュニケーションをとる唯一の方法なのだが、言いたいことは分かっていた。
『最初からこのつもりだったんだろう』
「まるで俺に悪意があるみたいな言い方をするね」
『悪意以外の何があるって言うんだ』
「心外だなあ。俺は同業者として彼女と情報を共有しているだけさ」
運び屋にそう返して、名前のもとへ送り込んだはずの男に向き合う。粟楠会の裏金を持ち逃げしたこの男は、四木含む幹部が今血眼になって探している人物だった。そして四木からの依頼で居場所を突き止め、情報を集める中で分かったのがこの男が頼った情報屋が名字名前であるということ。池袋の情報屋が手を貸していたという情報が粟楠会に流れればどうなるか、なんて考えるまでもない。まあ、俺としては商売敵にして大嫌いなやつが一人消えてくれるわけだし仕事もやりやすくなるわけだけど…それじゃあ、つまらないんだよね。
いくつかの情報を男に流して、パタンと閉まったドアを確認すると運び屋が近づいてくる。
「まだ何か用?」
『名前から矢霧波江宛の荷物を預かっている』
「波江さんに?」
『それと、この往復分はきっちり請求させてもらうからな』
「あーはいはい。だろうと思ったよ」
お礼くらいしてくれてもいいだろうに。別に最初から期待はしてないけど。
お金を受け取った運び屋は毎度あり、と嬉しそうに帰っていく。顔文字までついていたから相当ご機嫌なようで、どうせ新羅に何か買ってあげようだとか考えているのだろう。呑気なものだ。
どかりと椅子に座って先程受け取った白い封筒を眺める。少し厚みがあって、固い。一体何が入っているのかと疑問を浮かべる自分もいれば、なんとなく中身の予想がついている自分もいてなんとも複雑な気持ちだ。そして開けてみれば、やはり。
「それ、私宛てなんでしょう」
「……波江さんさ、いつから名前と知り合いなわけ?」
早歩きで上から降りてきたかと思えば、手に持っていた数枚の写真を奪うように取っていく。次の瞬間にはうっとりとした表情を浮かべた彼女を見てため息をついた。
「全く…油断も隙もありゃしないね」
愛する弟の名前を囁く波江を横目に、白い封筒を眺める。写真と共に入っていたメモ紙に目を通して火をつけた。
20220421
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