よん

ダラーズの掲示板は、私の情報源の一つである。もちろんただの噂も多いが、普通に暮らしているだけでは手に入らない情報がリアルタイムで転がっている。それはたとえば誰かが殴られているだとかカツアゲにあっているだとか小さな情報だったり、平和島静雄が今日も誰かを投げ飛ばしていただとか、粟楠会が揉めていただとか、誰かが銃を持ち逃げしただとかそこそこ大きな情報だったり。とにかくいくつもの写真や個人名が載せられる。池袋の一日はここを見れば大抵のことがわかると言っても過言ではないだろう。
だから私は今日平和島静雄が自販機や道路標識をある男に投げていたことも知っていたし、そのある男である折原臨也が池袋にいたことも知っていた。そして、ある密売組織から銃が持ち逃げされていたことも。私が知らなかったことといえば、その持ち逃げした男が折原臨也に恨みを持っていたということと、銃を使用したということ。一見バラバラな情報が実は裏で繋がっているなんてそう珍しいことではないのだと、私は今日改めて思い知らされることになる。

時刻は二十時。今日も池袋は騒がしかったな、なんてまさに掲示板を眺めていた時だった。インターホンが鳴り、この時間に来客の予定はなかったはずだし誰だろうとモニターを見る。しかしモニターは何かに塞がれているのか真っ暗で何も見えない。声をかけても返事はなく警戒したが、モニターの端に見覚えのあるものが映ってとりあえずロックを解除した。念のためポケットにナイフを忍ばせて玄関へ向かいドアに耳を近づけると、ゆっくりと足音が近づいてくる。音は私の部屋の前で止まったかと思うとガタンと大きくドアを揺らした。ドアを叩くというよりは体当たりをされたような衝撃に思わず耳を離す。覗き穴を覗いてみても人影は確認できず音もその一回きり。
この事務所を知っている人物は限られているし何より、とモニターに映ったあれを思い出してゆっくりドアを開けようとした。しかしドアはなかなか開かない。

「なにこれ、重い」

思いっきり押すと呻き声が聞こえた。ようやくできた隙間から顔を出して確認してみれば。

「……何事?」

やあ、と力なく笑う臨也がドアに寄りかかって座っていた。モニターの端に映っていたファー付きのフードを頭に被り、びっしょり汗をかいている。そして顔色が悪い。
近づくと血の匂いがして、思わず顔を顰めた。黒い服のせいで分からなかったが怪我をしているらしい。それもかなりの出血。傷口からしてこれはーー

「珍しいこともあるもんだね。撃たれたの?」

止血をしながら尋ねるが、ゆっくりと頷くだけ。今はなんとか受け答えをしているけれど、おそらく意識が朦朧としているのだろう。すぐに携帯で新羅さんを呼んで、意識を途絶えさせないように声をかけ続けた。

「臨也、これで貸し一つね」

「臨也、お礼は高級チョコレートがいいな」

「臨也、清掃費の請求は新宿の事務所宛てにしておくから心配いらないよ」

「臨也、もし今静雄が来たら確実に負けるね」

「……あの、さ…もう少し…マシな言葉、かけてよ」

「死にかけてるくせに我が儘だなあ…私、臨也に死なれるの嫌なんだよね」

「…へえ、?」

「警察なんて御免だし、後処理めんどくさいし」

「………」

「あれ、もしかして今期待した?臨也らしくもない」

「ちょっと…黙ってて、くれる…」

弱々しいながらも、苛立っているのがよく分かる。次は何と言ってやろうかと息を吸い込んだ時、遠くから足音が聞こえてきて息を吐いた。吐いた息が細く震えていて、そこでようやく自分が柄にもなく緊張していたのだと気づく。生死の境を彷徨っているこの男に対して、恐怖を感じていたのだと。……全く、おかしな話だ。なんだか腹が立って、臨也に向き直った。

「ねえ、臨也。臨也は私のことまだ愛せてないんだから…こんなところで死ねるわけないでしょ?」

私の言葉に臨也は目を見開いたかと思うと可笑しそうに笑って、そしてゆっくりと目をーー

「寝るなって言ってるんだけど」

「名前ちゃんが折原くんにトドメを刺しているように見えるんだけど、僕は治療のためにここに呼ばれたってことで本当に合ってる?」

『落ち着け、名前。こいつのために殺人犯になるなんてどうかしてるぞ』

「どいつも、こいつも…」

目を閉じようとした臨也に向かって振り上げた拳を大人しく下ろし、あとは駆けつけてくれた新羅さんに任せることにする。これだけ反応できているのだから死にはしないだろう。

「……なんで私のところに来たんだか」

私に借りをつくるようなことはしたくないだろうに。
新羅さんたちと共に、真っ赤に染まった玄関を後にした。


20220620

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