同居人は甘えた幼馴染 (2/10)






***

アパートのロビー前。

いつものようにロビーの中へ入ろうとした瞬間のことだった。

後方 こうほうからバタバタとせわしない足音が聞こえたかと思った瞬間に─それは私のロビーに入る あゆみ はばむかのように伸びてきた手に引き寄せられそのまま抱きしめられてしまった。

突然の出来事に私は動揺して声を上げそうになるが…すぐにその後方から抱きしめてきた人物の声に驚愕 きょうがくした。


「美和ちゃん。」


呼ばれるは私の名前──。

声の主は男だけど、聞き慣れたその声に驚きを隠せなかった。


だけど、何故…ここにいるはずのない彼がいるのか。
何故、こんな夜遅くにここにいるのか。


吃驚びっくりしながらもただ名前を呼ぶしかできなかった。


「…みなと?」
「美和ちゃん会いたかったー!!」


私が彼の名前を呼ぶと今度は甘えたような口調で少し腕の力を強くして抱きついてくるのはやはり私のよく知る人物に違いなかった。


「…ちょっ、湊!わかったから!いい加減離しなさいよ!」


私はそう言いながら彼の手を離して後方こうほうを振り返り彼と向かい合ったカタチをとる。


「え、なんでー!?久しぶりに美和ちゃんに会えたのにー!!」


そんな口振りで…拗ねたような口調を発する目の前にいる彼は──。

香月 湊 かづき みなと 21歳。

私の6歳年下の幼馴染みだ。



「…そんなことより、なんでここにいるの?」


湊が私の姿を見て抱きついてくるのは昔からだから慣れてはいる。

けれど、湊は未だに実家暮らしで都内だとはいえこんな夜遅くに私のアパートにいる理由がわからなかった。


「…なんでって…。美和ちゃんに会いたかったからに決まってるでしょ。」


だけど、湊から発せられた言葉はそんな頓狂とんきょうな内容だった。


「……こんな夜遅くに?それだけのために?」
「そうだよ。美和ちゃん全然こっちに来てくれないから俺が来ちゃった!」


確かに仕事が忙しくて実家にはなかなか帰れていなかったけれど…。

だからといって、湊が私に会いに来る理由にはならない。

湊は幼馴染みで彼氏というわけでもないのに。


「……理由、それだけじゃないでしょ?」
「………。」


私がそう尋ねると、湊は突如黙り込んでしまった。
湊が黙り込む時はそれが肯定 こうていだから。
つまりは私に会いにきただけが理由じゃないってことになる。




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