ありのままの君を愛してる (2/9)






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講義を終えて俺は1人で構内を歩いていた。

木曜日はバイトが入っていてそのままバイト先へ向かおうと思っていた。


だけど、テニスコートの前に差し掛かりそのまま通り過ぎようとしたところで突然声を掛けられた。


「あれ、湊じゃん。久しぶりね!」



その声にテニスコートの方に目を向けるとそこにいたのは俺が1年の時に付き合っていた元カノだった。



「あ〜〜久しぶり!」
「相変わらず冷たいのね。それより湊、奈々ちゃんのこと振ったんだって?」
「…奈々ちゃん?」



聞き慣れない名前に疑問符を覚えた。

今は美和ちゃん以外の女には興味がないせいか…告白された相手の名前をイチイチ覚えていなかった。


「…は?わかんないの?奈々ちゃん!」
「誰だよ、それ。」
「まじ?信じられない!」


"信じられない" と言われてもわからないものはわからないんだから仕方がない。


「私のサークルの後輩よ。数ヶ月前にあんたに告白しにいったでしょ?」


そう言われてふと思い出した。


数ヶ月前のあの1年か──と。



「…あ〜〜!」
「思い出したようね。でも、どうして振ったの?あんた今彼女いないよね?あの子は "好きな人がいるから振られた" って言ってたけど…。」
「…俺、嘘は言ってねぇよ。」
「え?じゃあ本当なの?好きな人いるって…。」
「本当だよ。嘘じゃねぇし。」
「え?いつからよ?私と付き合ってた時はそんなこと…一言も言ってなかったじゃない!」



元カノのそんな言葉に呆れるしかなかった。

確かにあの時は誰にも "本当は美和ちゃんのことが好き" だとは話したことなんてなかった。




「…別に話す必要もなかったから。」
「は?なんでよ?」
「…あの時は…本気で "あの人" を忘れたかった。ただ、それだけ。」
「……意外。湊って本当は一途だったのね!」
「意外ってなんだよ。」
「だって、今彼女いない理由がその "好きな人" なら "忘れられず想い続けてる" ってことでしょ?」
「…まあ。」
「それが意外なのよ。私が思ってた湊とは全然違うんだもん。」
「…なにそれ。意味わかんねぇ。」
「…ふふ。まあちゃんと湊にも "好きな人" いたんだって安心したってことよ。頑張りなさいよ?…じゃあね!」


元カノはそう言うとテニスコートのフェンスを離れコートの中へと戻って行った。



元カノの言葉に俺は疑問符を浮かべた。

俺に "好きな人がいることに安心した" と言われたのは2回目だった。




──確かに以前の俺は美和ちゃんのことを忘れるためにヤケになってた。

けど、それが "間違いだったんだ。" と気付いたから…
" 誰でもいい" なんて考えるのもやめたし…。

たとえ叶わなくとも "美和ちゃんを好きでいよう" と思えるようになっただけ──。


だから俺には今までもこれから先も…。

本気で "好き" だと思える相手は…

美和ちゃんしかいないのだ──。





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