記憶と約束

「…ところで…。」
「…はい?」
「悪いけど、俺これから仕事なんだ。」
「え?あ、すいません。」
「いや、引き止めたのは俺だし。」
「…あ、あの、麻弥ちゃんは…どこに…。」
「俺のアパートにいるけど、場所は麻弥の許可なくは教えられねぇな。」
「そ、そうですよね。わ、かりました。」
「……。」


麻弥ちゃんは高梨たかなしさんと一緒なんだと思うと何だか悔しい気持ちでいっぱいになってしまった。

高梨たかなしさんが麻弥ちゃんのことを理解しているのに僕は麻弥ちゃんのことを理解できていない。

「…麻弥ちゃんはあなたに何でも話すんですね。」
「…"何でも" かどうかはわからねぇけど、ひと通りは話したかな。…家出した理由とか…。」
「…僕は何も知らないんです。麻弥ちゃんの家出の理由も…。何故、僕と距離を置くようになったかも…。」
「…そうか。」
「…麻弥ちゃんのことよろしくお願いします。」


もう僕には麻弥ちゃんを好きでいる資格はないのかもしれない。
麻弥ちゃんが僕と距離を置くようになってしまったあの日から…。
僕はもう麻弥ちゃんの考えていることがわからなかったから。

だから高梨たかなしさんには敵わないと思った。
高梨たかなしさんは麻弥ちゃんの考えていることも気持ちも理解している。

――そう思い、高梨たかなしさんに "麻弥ちゃんのことよろしくお願いします。" なんて言葉が自然と出てしまったのかもしれない。

そして、僕は高梨たかなしさんにそう告げてすぐに高梨たかなしさんの返事も聞かずにきびすを返してその場を後にしたのだった。


[ 68 / 68 ]
prev back next#
*ページ移動*

★Index★