Twi log
▽2018/07/11(01:33)
私ね、本当はお姫さまでも何でもないの。振り絞るようなその声に、オレは頷く。そんなこと、何年も前から知っていた。わかっていた。あの頃ただ別室に隔離されていたというだけで、彼女はオレらと『同じ』だということも、骸さんにそう位置付けられたからオレらの『姫』として振る舞ってくれていたことも。でも、それでも。あの日初めて出逢った時から、ひと目見たその瞬間から、オレの思いは変わらない。「骸さんと柿ピーがどー思ってんのかなんてオレにはわかんねー。けど、オレにとっては大事な姫なんれす」
細くて白くて傷ひとつない指に、誓いでも立てるかのように口付ける。オレだって騎士なんてガラじゃないが、この人を護るためならそれもいいかもしれない。
犬蓮
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▽2018/06/12(23:59)
出来たばかりの夕飯を乗せたプレートを持ってリビングに戻ると、ソファの背もたれに全身を預けるようにして寝こける彼が目に入った。……まあ最近忙しかったのは事実だけれど、一応恋人の家なのだからもう少し遠慮というか配慮というかですね……いや、むしろ恋人の家なのだから、なのか。そう考えるとなんかむずむずする。でもせっかくのご飯冷めちゃうし、この体勢だと首痛めそうだし、なにより久しぶりに二人だけの時間を過ごせるというのに私のことをほったらかすだなんて酷いじゃないの。テーブルに二人分の食事を置いて、臨戦体勢に入る。いつも翻弄されるお返し。たまには王子様が起こされる側でもいいよね。恋人の日のめぽあい
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▽2018/06/07(20:20)
例えるならば、無色透明。一人でいる時の平塚先輩は、まさしくそんな印象であった。それは決して彼女が存在感の無い人間だという話ではないのだが、そこに居るのにそこに居ないみたいな、「私に気付かないで」と言われているような、そんな感覚がするのだった。
「ひらつかせんぱい」
そう名を呼べば、ふわりと色が着く。
「やあ、次屋さん。いい天気だね」
おれはまだ、彼女の本当の「色」を知らない。
つぎゃーさんとひらつかさん
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▽2018/05/27(23:06)
その女は、宿題の作文になんの臆面もなく「将来は、実家の料亭を継いで、たくさんの人に認められる料理人になります」と書ききってしまうような人間だった。そんな奴がある日突然、「私は料理人になれない」と零したのだ。「お兄ちゃんが継ぐんだって、お店」「ごめんね、枝津也くん、応援してくれてたのに」ぽつりぽつりと、消えてしまいそうな声で、そう俺に話す彼女の目には今にも溢れ落ちそうなほどに涙が溜まっている──ふざけるな。これだけの腕があってやる気もある人材が身内にいるのに、みすみす手放すってのか。「……彩音、よく聞け」
だったら、選択肢はひとつだろ。アンタ達が要らないというのなら、俺が貰う。
「俺がお前のための店をプロデュースしてやる。だからお前は料理人になれ」
叡彩小学生
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▽2018/05/25(18:38)
学校を出て、ボーダーの本部に向かう。私は夕方過ぎから入っている任務のために、右隣を歩く彼は個人ランク戦のために。私は右手をカーディガンのポケットに突っ込んで、彼は左手をスラックスのポケットに突っ込んで。お互い空いた手にはジュースの入った紙パック。時々袖が触れ合う距離で、いつもよりもゆっくりと歩く。「ねぇ、陽介」
「んー?」
「任務終わるまで待ってて、って言ったら怒る?」
「怒んねーよ。オレも一緒に帰りてぇし」
「そっかぁ」
ついつい口元が緩む。なんでそんなさらっとそういうことが言えちゃうのかなぁ。陽介の、こういう飾らないまっすぐな言葉が好きだ。本当は早く戦いたいだろうに、わざと遅く歩くいじわるな私に合わせてくれるところも好きだ。
「で、言ってくれないわけ?」
「……また言わなきゃダメ?」
「ダメ。ちゃんとお願いしてくれね?」
半歩ほど前に出て、陽介が屈み気味にこちらの顔を覗き込む。このままちゅー出来ちゃいそうだなとか、周りに人さえいなければなぁとか、そんな不純な気持ちを、自分の火照ったてのひらでぬるまってしまったりんごジュースと一緒に飲み込んだ。
「ようすけ」
「ん」
「任務終わったら会いたい。だから待ってて」
「……おう、りょーかい」
ちょっとだけ目を細めて彼が笑う。そのいたずらっこみたいな表情も、すきだ。
米屋陽介と下校なう
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▽2018/05/05(22:00)
あの日、ルフィが手を差し伸べてくれなければ、私はきっと誰かに背中を預けて戦うことの心強さを知らずに過ごして来た。誰かのために本気で勝ちたいと思うことも、失いたくないと必死にもがくことも、多分なかったと思う。だから。
「ね、ルフィ」
「ん?」
「ありがとうね」
きょとん、と目を丸くして首を傾げる船長に、思わず笑みが溢れる。まあ、それも仕方ないか。本来なら、今日という日に相応しいはずの他の言葉があるのだから。
「どうした? おれ、何かしたか?」
そうだよ。私は沢山のものを君に貰った。これからもいっぱい貰う事になるんだと思う。返し切れる自信はないけれど、それでも君が私を必要だと言ってくれるのなら、私と共に旅をしたいと言ってくれるのならば。
「あのね、生まれてきてくれてありがとうってこと! お誕生日おめでとう、ルフィ」
私もいつも通りの笑顔で、それに応え続けたいと思うのだ。
船長おたおめ
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▽2018/05/02(23:13)
全く、可愛げがないったらありゃしない。かつて上司と部下だった頃はもう少し敬意を払っていたように見えたが、流石は諜報部員と褒めるべきか、猫被ってやがったらしい。同僚となった今ではつんと澄ました顔して、おれの言うことなんてろくに聞きやしない。ある意味こっちも猫だ猫。「ったくよー、折角のカジノなんだからちょっとくらい遊ばせてくれたっていいじゃねーか」
「スパンダムさん、今回の我々の任務は?」
「……黄金帝からの天上金の護衛、だろ」
「わかってるじゃないですか。あまり無駄口叩いてるとルッチに言いつけますよ」
これだ。目線すら寄越さない。なんだよ、昔っからルッチルッチって。そりゃ憧れの存在かも知れねぇが、お前の恋人は誰だっつー話だ。多少はサービスしろっつの。
「へいへい。あーあ、昨夜のかわいい子猫はどこに消えいっっってぇ!!」
右足甲に衝撃が走る。こいつ、おれの足を踵で踏みやがった! しかも眉一つ動かしもしねぇで!
「次、変なこと言ったら痛いだけじゃ済ませませんからね」
「……はい」
周囲は「照れ隠しだ」と笑って流すが、こんな可愛くねぇ照れ隠しがこの世にあってたまるかってんだ。ほんっとに可愛げのない女だこいつは。
スパミチ(GOLD)
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▽2018/03/09(02:25)
おれはその時のことをはっきりと覚えていない。ただあいつが、アイビスが危ないと、そう思う間も無く身体が勝手に動いていた。「助けてなんて、言ってない」
軍医の処方してくれた痛み止めは効いていた筈なのに、頭がぐわんぐわんと揺れて痛む。いま、なんて。
「あんたは恩を売れてさぞ気分がいいでしょうけど、私一人でも十分対処出来たの。余計なことしないで……っ!」
「じゃあお前は! 仲間がピンチでも見捨てるってのかよ!」
アイビスのブラウスの襟を引っ掴む。後ろでコビーが止めようとしてくれているが、知ったこっちゃない。そりゃ色々と反りの合わないことも多いが、それでも、同じ部隊の仲間として仲良くなれたつもりでいたというのに、こいつは。
「……ピンチかどうかなんて、他人が決めることじゃないでしょ」
「……そうかよ、見損なったぜ」
他人。おれもコビーも、こいつにとってはその程度の関係でしかなかったのか。今まで積み重ねて来たものが、ガラガラと音を立てて崩れる気分だった。
メポ→アイ
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▽2018/03/09(02:17)
昨日、私を海賊から庇うようにして、ヘルメッポが怪我をした。ドクターには大事無いと言われたが、それでも、目の前で頭部を殴られ、倒れる瞬間の彼が頭から離れない。怖かった。もし、打ち所が悪かったなら、このまま意識が戻らなかったら……万が一の事があったなら。最悪の事態ばかりが脳裏を過ぎる。「おー、アイビス無事だったのか。よかった」
病室で再会した彼は意外にも元気そうで、安堵の溜息が漏れる。本当は謝りに来た筈だった。感謝をするべきだった。それなのに。
「助けてなんて、言ってない」
意に反して口から出るのは、彼を非難するような言葉ばかり。掴みかかられても仕方がない。でも、もういっそのこと、このまま見限ってくれれば。そうすれば私のせいで彼が傷つくこともなくなる。
「……そうかよ。見損なったぜ」
これでいい。これで良かったんだ。そう思うのに、堪えきれなかった雫が、一筋頬を撫でた。
メポ←アイ
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▽2017/09/13(21:11)
プレゼントはシンプルに、白い薔薇を七本。花屋には何度か訪れたけれど、ひとりで、大切な人のために買い物をしたのは生まれて初めてだった。きっと彼はこのブーケの意味には気付かない。それでいい。これはぼくの独り善がりだ、自己満足なのだ。「バラの花なんて、どうしたの急に」
「あれ、駄目かな? 何でもない日にプレゼントをするのは」
「いいえ、アーミーからもらえるんだったら私いつだってなんだって嬉しいわ!でもね」
デリンジャーは受け取ったブーケから一本だけ引き抜いて、こちらに差し出す。白い花弁が頬を掠めた。
「秘かな愛だなんて、寂しいこと言わないでよ」
デリアミ
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