「今日も見事な千鳥足だこと」
「えへへ〜、今日もいっぱい飲んだもんねぇ」
「飲んでたねぇ」
今日も今日とて鉄朗くんは優しい。前回何も考えずに腕を組んだことを猛反省した私は、それだけはするまいと頭の片隅に貼り付けていたというのに、気付けば千鳥足に見かねた鉄朗くんの大きな手が私の手をしっかり握っていた。鉄朗くんは照れるでもなくいたって普通に見える。
「えへへ」
「急にご機嫌になった」
「だって男の子と手繋いだの久しぶりだよね?」
「なぜか俺に聞いてるね?」
簡単に重なっているだけの手があたたかい。指先は少し固いんだ。知らなかった。ぶらぶらと手を揺らされて、鉄朗くんの方を見る。
「なまえちゃんて、なんで彼氏いねーの?」
「それはね〜私が知りたいね〜」
「こんな可愛いのに」
視界はぐにゃぐにゃしていないし、へにゃへにゃと体が柔らかい感じがするだけ。可愛いって言われたのはわかったけど、言葉のあやみたいなものだろうな〜なんて思う。
「しかも酔うと隙だらけじゃないですかー」
「そうなのかぁ〜でもてつろーくんが口酸っぱく言うじゃん〜!男はみんな狼!俺がいない時は飲みすぎちゃだめ〜!って」
「なに、ちゃんと守ってんの?」
「良い子だなぁ、わたし」
鉄朗くんは手を繋いだまま振り返って前を歩く。もう片方の大きな手が伸びてきて、ぐしゃりと髪を触りながら頭を撫でられた。
「なまえちゃん俺のこと好きかよー」
「うん、好き〜」
鉄朗くんの言葉にくっついて流れてしまいそうなほど間を開けないで返事をすると、重なっていただけの手がそっと離れ、一本ずつ順番に絡んでいく。覗きこまれて視線も絡み、鉄朗くんは伺うように私を見ていた。
「嫌?」
「んーん。でもてつろーくんよ」
「はいよ」
「てつろーくんは羊じゃなかったっけ……」
「違う違う、結局狼なんだわ」
そっかぁ、狼さんでしたか。羊だったような気がしたんだけどなぁ……アパートが見えて、鉄朗くんに鍵を開けてもらう。フローリングに足を乗せると、ひんやりと冷たい。
「鍵ちゃんと締めろよ」
そう言いながら鉄朗くんの手は離れない。矛盾してる。絡んだ指をきゅうっと握ってへにゃりと笑えば、鉄朗くんはむずむずした表情で扉に寄りかかった。
「明日電話する」
「うーん……なんで?」
「鈍感か。まぁいいや、おやすみ」
「おやすみ〜」
離れた手が寂しがり、狼って案外優しいんだななんて思った。彼氏ができるなら鉄朗くんがいいなぁ。
▷ つづき2021