「……もしもし」
「まだ寝てたか」
「んん……てつろーくんどうしたんだい」
「……早速忘れてんなぁ」
「おはよう……?」
「うん、なまえちゃんオハヨー……じゃなくて」
ちょっとだけ体がダルい。二日酔いではないけれど、気分爽快というわけでもない。スマホが鳴り、寝ぼけ眼でアラームを止めようと画面を指でスライドしたら、鉄朗くんの声がして、そこで電話だって気付いたのだけど。まだ半分は夢の中にいるみたいな感じだ。
「昨日のこと、覚えてる?」
昨日のこと。
『なまえちゃん俺のこと好きかよー』
『うん、好き〜』
そう言われて思い出したのは、告白まがいなことを言ったことと、なんだか真剣な眼差しの鉄朗くんだった。
「昨日もありがとー、てつろーくん」
少しかすれた声でお礼をいって、朝ではない陽を浴びて。
そうしたら恋人繋ぎをしたことも、追いかけるように記憶に甦ってきて、なにか忘れていることがあるんじゃないかなんてしばらく考えた。
「あれ」
「んー?」
「キスとか……」
「……していいならしてたわ」
あら。もしかして、私のこと好きなのかな。鉄朗くん。羊の皮を被った狼だって言ってたけど、私だけにそうだったらいいな。夢の中にいた半分は少しずつ目を覚ましてきていて、ゆっくりと働きを始めた頭が色んなことをぐるぐると考えさせてくる。
「なまえちゃん。ボク、期待に胸を膨らませて電話したんだけどなぁ」
察するに、そういうことだと思う。私だってそんなことを言われて期待に胸が膨らまないわけがない。鉄朗くんは優しいしかっこいいし大好きだし彼氏にするなら鉄朗くんがいいなぁなんて昨日思ったばかりなのだから。酔ってはいても、さすがに本心に違いはないのはわかる。
「昨日のてつろーくんさ。ちょっと狼だったよね」
「おっかしいなぁ……尻尾見えちゃってた?」
「耳も見えちゃってたよ」
「まじでー」
余計なことをたくさん話して、遠回りをする。なんとなくお互いが思いあってることがわかるからできることなのかもしれない。
「でもなまえちゃんの前だけだよ。狼になりそうになるのは」
「そっか、特別扱いだ」
「そりゃあ特別ですから、なまえちゃんは」
ベッドの縁に座って、掛け布団を整えて。いつものことがちょっとだけ幸せなことに思えた。
何気なく髪を触れば、びどい寝癖なことに気づき、こっそりと笑いそうになって。
「今度会ったらちゃんと告白させてよ」
ひゅっと喉をならしかけながら、私はとうとう羊の皮を完全に脱ぎだした狼さんに、ふざけたように返事をした。
楽しみにお待ちしております、って。
▷ つづき2021