青根高伸と小柄女子 1/2
「青根が1年に告白されたらしいぞ!」
突然舞い込んだ大ニュースは、バレー部をはじめとする3年ほとんどに瞬く間に広がった。青根達が最高学年になってまだ1ヶ月ほど。青根が、まさかあの青根が。皆が口を揃えてそう言ったのは当然のことだった。
二口とその彼女は、3階から告白の様子を覗いていた。覗くのは良くないという彼女も、そう言いつつ聞こえるはずもない3階の窓からちゃっかり聞き耳を立てていた。二口はじーっと様子を眺め、青根の表情を伺う。
青根のやつ、ちょっと嬉しそうじゃん。にしても青根と並ぶとあの子さらにちっさく見えんなー、などと思いながら。
彼女は二口に自慢げに言った。
「私が前に言ったの、現実になったりして。ほら。青根くんには小柄のふわふわした彼女が似合うって話」
頬杖をついた二口がハッと鼻で笑うのを予想していた彼女に反して、返された言葉は、一言。なくもねぇな、だった。
ただし。最新ニュースにつき、青根がなんと返事したのかはまだ誰も知らない。当人同士を除いては。
教室に戻っても、青根は通常よりもだんまりを決め込んでいた。二口のように物腰の柔らかい見た目とは真逆だが、青根は皆に好かれている。好かれているが故に、青根の机の回りには野次馬が集まっていた。皆の最大の疑問は、あのふわふわ小柄女子が何故青根の魅力に気付いたのかということだった。1年はまだ入学して1ヶ月。青根とすれ違うのをビクビクしている者は大多数いて、女子にいたっては青根と雑談とする者といえば二口の彼女と滑津くらいだ。
「青根〜あの子と付き合うの?いいな〜」
「まだ青根なんも言ってねーじゃん!で、どーなった?」
「このやろー、なんて告られたのか聞かせろー!」
「······勝手に話すつもりはない」
もっともである返答に、野次馬たちは残念そうに納得し、退散するしかなかった。なにも語らない、語れない。語ってはいけない。そう思いながら、されたばかりの告白を青根はそっと頭の中で呼び戻していた。
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「わざわざ呼び出してしまって、す、すみません。私、1年のみょうじなまえっていいます。あのっ······その。覚えてないかもしれないんですけど。ちょっと前に階段で転びそうになった時、先輩が支えてくれたことがあって。それで、先輩のおかげで階段から落ちないで済みました······それから先輩のこと知りたくなって、目で追うようになって。す、すきに、なってしまって」
ピンク色の頬。集中しないと聞こえないような小さな声。華奢な体。青根はなまえのことを覚えていた。なまえが言う、階段での出来事を。目の前で躓いたなまえの手を咄嗟に掴み、反対の手で細い腰を抱えた瞬間を。鮮明に覚えていた。いいや違う。忘れられなかった。
「いつも親とか先生とか、もっとしっかりしなさいって言われるんです。私とは違って、先輩はいつも堂々としてて。先輩は私の憧れです······できれば、つ、付き合ってほしい、です」
「······」
「······お、お返事はいつでも、」
「······少し考えさせてもらいたい」
当たって砕けろの精神で挑んだなまえは思いのほか前向きな返事に驚き、ピンク色の頬を濃くさせた。
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浮いた話を持ち合わせていない青根はなまえの言った付き合うという行為について淡々と考えてみたが、答えは出なかった。ただひとつわかることは、そう簡単なのものではない、ということだ。自分が彼女と一緒に帰ったり、手を繋いだりするなんて光景は、容易に想像できるはずもない。
「にろ!青根くんが考える像みたいになってるよ!ちょっと話聞いてあげなよ」
「おまっ······マジでふざけんな」
考える像って!思わず吹き出した二口は、彼女に背中を叩かれながら像化する青根の前の席に座る。そして、青根が自分に気づくのを数秒だけ待って、口を開いた。
「青根」
「······」
「おーい。聞こえてるかー?」
無口なのは通常通りだったが、自然と無口な訳ではない。ずっとひとつのことを考えていたからいつもよりも無口なのだ。ただ、表情はいつもよりも柔らかいような。
「······悪い。考え事していた」
「あの子。なんだって?告られたんだろ」
「······」
黙りこくったって、顔を見れば二口には大体わかる。心なしか青根の頬がピクッと上がったのを見逃さず。ふーん、と二口は笑った。
「もしお前が断らなかったんならさ、付き合ってもいいと思ってるってことじゃね?」
その瞬間の青根の表情は初見ではなかなかのものだが、二口にとってはなんとも慣れた表情だ。青根はそれに納得していいものかわからないと思いつつも、二口の言葉になんの反論もなかった。自分が彼女のことを好きなのかはわからない。誰かに取られてもいいのかと煽られても仕方ないと思うだろう。でも、彼女のピンク色の頬を思い出すと、なまえの気持ちに応えたいと思ってしまう。偶々階段で助けたなまえの感触を覚えていることも、このとらえどころのない感情も、二口の言葉を照らし合わせれば合点がいくのだ。ただ、二口の付き合ってもいい、という言葉だけは違うと思ったが。
「······今日はみょうじの所に寄ってから部活に行く」
「ごゆっくり。遅れてきてもいいし」
「いや。部活には間に合わせる」
一方で。ふわふわとそわそわ。いろんな気持ちが渦巻くまま次の授業の準備をしているなまえはこれっぽっちも思っていなかった。青根が欲しいと言った考える時間は、たった二時間ほど。それで答えが出るなんて。
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