「おチビ〜。そんなに炭酸飲んでると骨が溶けて背が伸びなくなっちゃうゾ!」
今まで何回も父親に言われたことを、英二先輩が口にする。その屈託のない笑みも父と同じだ。悪戯で、冗談交じりで、周りを明るく照らす。要するに、ただからかってるだけなのだ。
「どうせ迷信っス」
だってアメリカじゃ、友人達は毎日コーラを飲んでたけど俺より小さいやつはいなかったし。そう思ってまた口をお気に入りのグレープ味で満たす。パチパチと弾ける炭酸を楽しむうちに、いつのまにか話題はどこかに消えていた。
風呂上がりに飲む牛乳にもすっかり慣れた。母が毎日買い足してくれるので冷蔵庫の一番下の段はすっかり俺の牛乳で埋まってる。上段は届かないだろうという母の気遣いに気付かないふりをしていても、やはり目線と同じ高さにある牛乳を見ると、なんと言っていいかわからない気持ちになった。まだ少し濡れた髪をタオルで拭きながら、器用にコップを口に近づける。
「リョーマさん、お行儀が悪いよ。」
背面で洗い物をする菜々子が窘めるがその声は優しい。どこかで聞いたことのある鼻歌と、食器のカチャカチャという音がまったくしょうがないなぁと言っているようだった。
リョーマの温まった体に気付いたのかカルピンが足元で顔をこすりつける。こら、カルピン危ない、と言いながらふと英二先輩の言葉を思い出した。
にゃろう…あんなの別に信じてないし。
飲み干したコップの底を悶々と見つめる。このまま部活で一番小さかったら…でも流石に伸びてほしい。あの人ってこれ位かな?と頭上に伸ばした手の平は、テニスと一緒でまだまだずっと遠い遥か先のようだ。
「ホアラ〜」
カルピンの言葉がわかるのは俺だけだと思う。これは「僕にも頂戴!」って意味。
こいつも欲しいっていうなら、それに付き合うのも悪くない。いつもより長風呂で少し喉も乾いたし、この牛乳はあと少しで賞味期限が切れるから早く飲み切ろう。そんな見栄を誰かに張って、コップと猫用の皿に牛乳を注いだ。