混ぜて交わって
バレンタインと言えば、と全面に押し出されたお菓子。
バレンタイン特集と組まれた場所にはいろんなチョコが置かれている。
どれも高級そうで綺麗な……、女性の好みそうなもの。
(おかしい。おかしいおかしい!男性に渡すものなんじゃないの!?なのになんで明らかな女性向けのものばかりなわけ!?しかも高いのばっか!本命は高いの。とかそんなこと考えてるんじゃないでしょうね!)
いろんなバレンタインコーナーを2往、3往復と周りながらあれでもない、これでもないと探している。
下手に高いものを渡せばそれを選んだセンスを見られそうだ。
そして味だって何か思われそう。これが好きなの?とか。
もしくは適当に高いもの買った?なんて……。
(思われないよね?いや、思わないよね!?でも食べた後に自分が作る方がもっと美味しいのを作れるとか言われそう。いやでも彼が作る方が美味しいでしょうよ……)
そう。今回探しているのは恋人、いや、恋刀に渡すものを探しているのだ。
しかも相手は燭台切光忠。
(付き合い始めは周りに言われたもんね。後が大変になるぞ、って)
実際大変なのだ。求められるもののレベルが高い、というわけでなく常に自分が優秀であるということをわからせに来るところが。
確かに彼が用意してくれるものはいつだって凄い。
美味しいものに暇だったからで始めた刺繍。洋服センスだって良いしデートに連れて行ってくれるところはおしゃれ。なのに格式張った堅苦しいものだけで纏めてこない辺りにかっこつけでやってるわけじゃないのがわかる。
そして私だって背伸びしたくなるような時はある!
そんな時に少し背伸びした分にそっと合わせるようなフィット感が凄いのだ。
もう駄目、完敗よ……。下手に作るより買った方が、と思ったのに買う物のセンスまで心折れそうだなんて。
いっそのことチョコ特集された食べ放題に行った方がいいかもしれない。
なんて思いながら板チョコと生クリームを買った。
ーーー
そして作った生チョコが現在目の前に鎮座ましましているわけだが。
「なんであんたに渡すものなのにあんたが作るの手伝ってるのよっ!」
「だって1人だったら危なっかしそうだったし。でもほら、こういうのって一緒に作った方がより美味しく感じるでしょ?」
なんて、隣でにっこりと笑っているのは黒の目の細いセーターを着た燭台切である。
下には違う色味の黒のズボンでクリーム色の腰エプロンをしているのだから何というかわかっている。この男自分がかっこいいこともそれを活かせることが出来るということもよくわかっている。
対するこちらは作った後にすぐ渡しに行くつもりだったから、クリーム色のワンピに茶色の差し色が所々にあしらわれている服である。
はっきり言って料理するのに向いていない。
燭台切が来ていなかったらあわや服の袖はチョコまみれになっていたことだろう。
「それにせっかく可愛い格好してるんだから汚れなくて良かったじゃない」
「そっ!それはご迷惑お掛けしました……」
しおしおと声が小さくなっていくのも無理はない。
作るのに夢中で、垂れてきた裾が長めになっている袖がもう少しでチョコの入っているボウルに入るところだったのだ。
そこを丁度通りがかった燭台切に助けられたという顛末である。
「なによりね」
隣で使った器具を片付けていた燭台切が作業テーブルの前で仁王立ちしていた審神者に作業台ごと覆い被さる。
「こんなに可愛い格好した彼女に早く会えて嬉しいな」
耳元で囁かれた声は全身を駆け抜けていくほどに甘い。
「みっ!耳元で急に喋るのはやめてって言ってるでしょ!」
ぎゅうっと抱き締められた腕に審神者が抗議の意味を込めて叩いていると、ほら、とまた燭台切が囁いた。
「そんなに可愛い態度を取って。耳元で囁かれるのも抱き締められるのも好きだよね?それに」
すりっ、と審神者の耳に鼻を軽く擦りつけると更に甘い声で囁いた。
「涙目になってる。こんなに可愛いと食べたくなっちゃうな。チョコは冷蔵庫にしまって部屋に行かない?」
そう囁く燭台切は完全に臨戦態勢である。
鏡越しに片目だけの瞳がきらりと輝いたのを見た審神者は息を思わず呑んだ。
「だっ、だめ!」
「なんで?こんなに欲しそうな顔をしてるのに?」
顔に添えられた手で上を向かされる。
鏡に映る自分の表情はまさに欲情した女のソレである。
本当は応えたい。応えたいところであるが。
「そこまでいける時間がないのと今回は全年齢対象で考えてるからっ!」
「は?」
「年齢制限は余裕がある時に別枠にするから〜!!!」
そうして審神者は逃走した。
お題 「甘い」「溺愛」「悪い子」
- 5 -
*前次#
ページ: