初ゲーセンな豪炎寺と俺
豪炎寺に押されてゲーセンに足を運んだのはいいが。
「……なあ、そんなに腰を落とさなくてもいいんじゃないか? ホッケーだよ? どうして手を振り上げてるの? もっとお手柔らかに、」
「フンッ!!」
「ッア"ーーー! 俺の人差し指が!!」
豪炎寺の剛速球が俺の指を強打し、
「ねえ俺の車に執拗にぶつけるのやめてくれる!? せめてアイテムで妨害しろよ当たり屋かよ!」
「お前の後を走るゲームじゃないのか? 距離感が上手く調整できなくてぶつかってしまうんだ」
「レースだから! もっと闘争心燃やして! 鎮火しないで!」
レーシングゲームでは何度も追突され、
「太鼓のバチそんなに睨み付けてどうすんの」
「俺としては和太鼓よりもギターの方がいいんだが……かっこいいだろ?」
「ギターの達人でもやってろ」
太鼓のリズムゲームだと理解していなかったりと、余りにもゲーセン慣れしていない様子に始終驚かされていた。
こんなにも突っ込み役に回ったことは一度もない。マイペース豪炎寺、恐るべし。
精気を失っていく俺とは反対に豪炎寺は活き活きとして、アレはなんだコレはなんだとしきりに俺の肩を叩いてくる。
つまりそれだけこういった娯楽を経験していなかったという訳だ。サッカーへ一直線だったからだろうか。
それならこうして教えてやるのも悪くない。
ふと、豪炎寺がクレーンゲームの前で足を止めた。じっと中を見つめており、俺も倣って覗き込む。
「クマのぬいぐるみ?」
「かわいいな」
「あ、もしかして妹さんに?」
こくりと頷いた。
クッキーを渡した時といい、ぬいぐるみといい、本当に妹が大好きなんだろう。
ぬいぐるみは片手で持てるギリギリといった大きさで、なかなか高難易度だ。
「やってみるか」
「と、取れるのか、こんな大きなものを……百円で!?」
何やら豪炎寺がわなないている。
豪炎寺に見せたいだけだしお試しということで百円を投入し、クレーンを操作してぬいぐるみを上手くキャッチ! ……しかし持ち上げている最中にぼとりと落ちてしまった。
「まあアームが弱いしこんなもの、えっ」
「そう……だよな……百円で取れるわけないよな……」
振り返ったら、滅茶苦茶落ち込んでいた。
するとよく分からない衝動のようなものが俺の中に湧きおこり、その勢いのまま俺は五百円を投入していた。
「知ってるか豪炎寺……五百円入れるとな……六回できるんだよ!」
・・・・
――結論から言えば、ぬいぐるみは見事手に入れた。
しかし俺の五百円だけでは太刀打ちできず、諦めようとしたところで豪炎寺が無言で五百円を投入してくれた。
その時二人の間では視線の交換だけが行われ、声を発すること無く通じ合った。
駄目押しで豪炎寺のもう百円、合計千二百円をかけて手に入れたクマのぬいぐるみを俺達は敵の首のように持ち上げて喜び合った。
意気揚々とゲーセンを出た所で、豪炎寺が何やら青い顔をし始めたので問いかけてみると「金は半分だったから、ぬいぐるみを半分に千切って渡すべきなのか……? 買い取るから許してくれないか……」震える手で財布を握っているので頭を叩いてやった。
流石に冗談だろお前。
「妹さんの感想聞かせてくれればいいよ」
「……そうだな。天野には、絶対に伝える」
「おう、楽しみにしてる」
「絶対だからな」
「めっちゃ念押すなあ……」
さて。そろそろ日も傾いてきたので俺は帰らなければいけない。
豪炎寺も察したのか、駅まで送ると申し出てくれた。素直にありがたいことだった。
「今日はすまなかった」
「いいや、こっちこそ手帳拾ってくれてありがとう。助かった」
「郵送すればいいのに俺の勝手に付き合わせてしまったからな」
「(自覚あったんか)楽しかったんだからいいのに」
豪炎寺がじっと俺を見つめてきた。
何か言いたいのだろう、少し待ってみるとやはり口を開いた。
「また連絡していいか?」
「ああ、いつでも」
遠慮がちに言う豪炎寺を安心させるために笑えば、お返しのように笑ってくれた。
2018.1.14
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