05.穢れた血
ホグワーツ二年目の初日はあまりいいものではなかったが、夜遅くに訪れたふくろうのおかげでレイラは幸せな気分で眠りにつくことができた。

レイラが明日使う教科書を確認しているとコツコツと窓を叩く音が響いた。羊皮紙を咥えた茶色のふくろうが窓の向こうにとまっている。

「こんな時間にお手紙?」

誰からだろうと窓を開けて羊皮紙を受け取ったレイラは、そこに書かれていた文字を読んで「やったぁ!!」と大声を上げた。その声に驚いたふくろうが恨めしげにひと鳴きして飛び立っていく。

『レイラ、クィディッチの選抜テスト受かったよ!シーカーだ!今週の土曜に初めての練習がある。レイラも特別に見に来ていいってフリントからお許しが出た。見学に来てくれたら嬉しい。もちろん、他の奴らには知られないように気を付けるんだぞ。ドラコ』

いつもより少し乱れた文字からドラコの喜びが伝わってくるようで、レイラは喜びのままにぴょんぴょん飛び跳ねた。ドラコの努力が報われたのだ。自分のことのように嬉しい。
机の上に置いたカレンダーの土曜日にハートマークを書き込んだレイラははち切れんばかりの笑顔でベッドに飛び込んだ。



土曜の朝、目を覚ましたレイラは眠たい目を擦りながら起き上がった。普段休みの日は時間を気にせず眠っているのだが、今日は大切なドラコの初練習の日だ。そろそろ向かわないと練習開始に間に合わなくなってしまう。何度も欠伸をしながら着替えて大広間に向かうと、玄関ホールにドラコの姿があった。その後ろにはスリザリンの選手達の姿も揃っている。

「おはよ、ドラコ」
「おはよう。まだ眠たい?」
「んー、ちょっとね…」

ふわぁと欠伸をするレイラをドラコは愛おしそうに見つめる。するとその後ろから大きな体格の上級生、フリントがにこやかな笑顔を浮かべてレイラの手を取った。

「おはよう、レイラ嬢。こんな朝早くから君の顔を見ることができて嬉しく思う」

朝早くというにはだいぶ太陽は高くに昇っていると思うのだが、レイラはそこには触れず笑顔で返した。

「フリントおはよう。皆は今から着替えるの?」
「ああ、競技場の外に更衣室があるんだ。更衣室の隣には簡易的な休憩室もあるから、俺達の着替えが終わるまでレイラ嬢はそこで待っているといい」

レイラはドラコと手を繋ぎながらスリザリンのチームに混ざって競技場へと向かう。結局去年一度もクィディッチの試合観戦をしなかったレイラは授業以外で競技場に来るのは初めてだ。

更衣室は競技場の四隅にあり、そのうちの一つがスリザリン寮のものらしい。フリントは簡易的な休憩室と言っていたが、休憩室にはベンチの他に座り心地の良いソファーも置いてあって居心地は悪くなさそうだ。棚には応急処置用の救急箱やクィディッチ関連の本や資料が並び、壁にはクィディッチのポスターが飾られている。他のチームの休憩室もこんな感じなのだろうかとキョロキョロしていると、更衣室のドアが開かれた。

「うわぁ…!!ドラコ!かっこいい!」

深緑のローブを羽織り、手にニンバス2001を携えて立つドラコの姿を見たレイラは頬を染めて目を輝かせた。差し色に緑が使われているニンバス2001もしっくり馴染んでいて、この箒がスリザリンの為に作られたようにすら思える。

「とってもかっこいい!やっぱりドラコは世界で一番スリザリンカラーが似合うね!」
「おいおい、俺達だってスリザリンカラーが似合うだろ?」
「ドラコだけじゃなくて俺達の事も褒めてくれよ」

モンタギューとピュシーに笑われてレイラもくすくす笑いながら他の選手に目を向け、その目を大きく見開いた。ドラコだけでなく、メンバー七人全員の手にニンバス2001が握られている。

「ニンバス2001だわ!みんなドラコとお揃いなの?」
「ああ、ドラコとレイラの父上が買って下さった」
「お父様からの合格祝いね。お父様もドラコが頑張ってたの知ってるから、嬉しいのよ」
「レイラ…」

ドラコは少し恥ずかしそうにレイラの腕を引いて言葉を止めた。努力していることを人に知られたがらないドラコとしては、夏の猛特訓の話はあまりしてほしくないのだろう。

「期待の新シーカーに、新しい箒!」
「これで今年の優勝は決まりだな!」

「おう!」と体育会系らしい彼らの大声を聞きながらにこにこしていたレイラだったが、ふとこれでいいのだろうかと疑問に思う。レイラはグリフィンドールだ。スリザリンが優勝に向かって士気を高めているのを微笑ましい気持ちで見ているのはダメなのではないだろうか。

「レイラ、行くよ。見学は観客席からするといい」
「はーい」

ドラコと手を繋ぎ、まあいいかと一瞬過った懸念は放り投げることにした。寮がどうだとかは関係なく、頑張っているチームを応援するのは悪いことではないはずだ。

競技場へ入ったレイラは「あれ?」と首を傾げた。既に競技場の空には飛び回る選手の姿がある。深紅のローブ──グリフィンドールの生徒達だ。

「みんなで一緒に練習するの?」
「まさか」

ドラコがそう笑った直後、グリフィンドールの選手達が物凄い勢いでピッチへと降り立った。

「フリント!今は我々の練習時間だ。そのために特別に早起きしたんだ!今すぐ立ち去ってもらおう!」

スリザリンの選手六人が目の前に立ちはだかったせいで、ドラコとレイラからはグリフィンドールの選手達の姿は見えない。それでも大声を上げるウッドが怒っているだろうことはわかる。

「ウッド、俺達全部が使えるぐらい広いだろ」
「いや、ここは僕が予約したんだ!僕に使用権がある!」
「ふん、こっちにはスネイプ先生が特別にサインしてくれたメモがあるぞ。『私、スネイプ教授は本日競技場において、新人シーカーを教育する必要があるため、スリザリンチームが練習することを許可する』」

フリントとウッドの言い合いを聞きながらレイラは口をへの字に曲げた。競技場はこんなに広いんだから仲良く一緒に練習したらいいのに。それに先に予約が入っていたのに横入りするのも良くない。どっちもどっちだ。

「新しいシーカーだって?どこに?」

スリザリンの選手達が横に割れ、ドラコの姿をグリフィンドールに見せつける。そのドラコの誇らしげな横顔にレイラは自分まで誇らしい気持ちになって微笑んだ。

「ルシウス・マルフォイの息子じゃないか」
「それにレイラはなんでそこにいるんだ?」
「私は練習の見学なの」

レイラが笑顔で答えると、フレッドが嫌そうに顔を顰める。

「スリザリンの練習を見学?──おい、その箒…」

文句を言おうと開いたジョージの口は、スリザリンのメンバー全員の手に握られた箒を見つけたことであんぐりと開かれたままになった。七人全員が見せつけるようにピカピカに磨きあげられたニンバス2001を突き出す。

「ニンバス2001。先月出たばかりの最新型さ。ドラコの父上からの有難い贈り物だ」
「どうしたんだい?どうして練習しないんだよ?」

その場にいる全員の視線が美しい箒に注がれていると、芝生の向こうからロンとハーマイオニーがやってきた。そしてスリザリンチームの中にいるレイラとドラコの姿を見つけると、怪訝そうに眉を寄せた。

「あいつもレイラもなんでこんなとこにいるんだ?」
「ウィーズリー、僕はスリザリンの新しいシーカーだ」
「私は見学よ」
「僕の父上がチーム全員に買い与えた箒を、皆で称賛していたところだよ」

ドラコは得意気に微笑む。

「いいだろう?グリフィンドールチームも資金集めして新しい箒を買えばいい。クリーンスイープ五号を慈善事業の競売にかければ、博物館が買いを入れるだろうよ」

クリーンスイープ五号というのはそんなに古い箒なのだろうか。箒に詳しくないレイラにはさっぱりわからないが、スリザリンチームはドラコの言葉を聞いて大爆笑だ。

「少なくとも、グリフィンドールの選手は誰一人お金で選ばれたりはしてないわ。純粋に才能で選手になったのよ」

きっぱりと告げたハーマイオニーの言葉に、レイラは眉を吊り上げた。ドラコの努力を踏み躙るようなその発言は許せない。

「ハーマイオニー!なんてことを言うの!」
「そうだ。誰もお前の意見なんか求めてない。生まれ損ないの『穢れた血』め」
「ドラコ!!」

ドラコが吐き捨てるように言うので、今度はドラコに向かって窘めるように声を上げた。いくら酷いことを言われたからって、ドラコまで酷いことを言うのはいけない。
けれどレイラの声はグリフィンドールチームから上がった怒りの声にかき消されてしまった。そのあまりの怒りようにレイラは目を丸くする。酷い罵詈雑言の嵐だ。

「マルフォイ、思い知れ!」

レイラ達を守るように目の前に立っていたフリントの脇の下から杖が現れたかと思うと、次の瞬間バーン!と大きな音が響いた。何が起こったのかとフリントの影から顔を覗かせると、ロンが芝生の上に尻餅をついていた。どうやらロンの呪文が逆噴射して、ドラコではなくロン自身に呪文が当たったらしい。

「ロン!ロン!大丈夫?」

ハーマイオニーが悲鳴を上げながら駆け寄ると、ロンの口からナメクジが数匹飛び出してきた。レイラは芝生の上をぬめぬめ這い回るナメクジの姿に「うえぇ…」と小さく呻いた。生理的に気持ち悪い。

悲惨なロンの姿にスリザリンチームは笑い転げているし、グリフィンドールチームは心配そうにしつつも近寄るのを躊躇うしで競技場内は混沌としている。
こんな呪いをドラコにかけようとしたロンへの怒りと、ナメクジを吐く可哀想な友人を心配する気持ちとでレイラは困惑した表情で立ち尽くしていた。
一番に動いたのはハリーだった。

「ハグリッドのところに連れていこう。一番近いし」

言われたハーマイオニーは頷き、ハリーとハーマイオニーの二人でロンを助け起こして歩き出した。その時ハーマイオニーが何か言いたげにレイラに視線を向けたので、レイラは少しだけ悩んでからハリー達を追いかけることにした。

「レイラ!」
「ドラコ、悪い言葉を使ったんだから反省しなくちゃだめよ!」

呼び止めるようにドラコから声をかけられたが、レイラは厳しい顔でそれだけ言ってくるりと背を向けた。ハリー達が歩いた後には所々ナメクジが落ちている。踏んでしまわないように気を付けて追いかけると、すぐに三人に追いついた。

レイラが合流すると三人は何か言いたそうにしたが、それよりも今はロンをハグリッドの小屋に連れていくのが一番だ。時折ハーマイオニーがロンを励ます声だけを聞きながら、四人は小屋へと向かった。

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