
ここ、七番街スラムに、とあるカップルが誕生した。2人のことを周囲から見ていた者に言わせれば、初対面からお互いの印象は悪くなかったはずだ。むしろ、初めて言葉を交わした瞬間から、お互いの中に好意が芽生えていたんじゃないか、とすら思える。ただ、そう思っていたのは周囲の者たちのみ。本人たちは、揃いも揃って相手の好意に気付く様子もなく、いつも周囲をやきもきさせていた。
腕っ節は強く、いつもクールに振舞っているのに、恋愛のこととなると途端に奥手になるクラウドと、片やいつも感情表現が豊かすぎるあまり、よく笑い、よく泣きもする名前だ。
気になるくせにどう接していいのかわからず、素っ気ない態度を取るクラウドも悪いが、そんなクラウドの態度に自分は嫌われているんだと思い込み、勝手にどんどん落ち込んでいく名前…完全に、どっちもどっち、だった。そんな2人が紆余曲折を経て、この度正式にカップルになったのだ。手放しに祝福する者は多かった。ただ…
「なぁ、知ってるか?スラムの端にとんでもねぇモンスターが出たらしいって」
「聞いた聞いた。誰かが退治してくれたみたいだけど、その戦闘跡がすごいんでしょ?」
「地面えぐれてるって話だぜ…」
「居住区内にそんなモンスターが出るなんて、もう引っ越そうかな…」
憶測が憶測を呼んでいるのは、間違いない。だが、その出どころがこの男であることも、間違いない。
そう確信して、深くため息をついたのはティファだった。カウンターに座るクラウドは涼しい顔で視線を向けてくる。
「…ねぇ、クラウド」
「なんだ?」
「討伐の依頼は、確かウェアラットだったよね?」
「ああ」
「ネズミの討伐にアビリティを使用する必要、あった?」
地面がえぐれている、という住人の証言から十中八九そうだろうとは思っていたが、クラウドは至極当然、とでも言った様子で否定もしなかった。彼の実力であれば、アビリティなど使用する必要性など皆無だっただろうに…そう言いたげなティファに気が付いたのか、クラウドは手元のグラスを傾けながら小さく息を吐いた。
「あの手のモンスターには実力の差を見せつけておいた方がいい。でないと、すぐにまた沸いてくる」
「それはそうだけど…その都度何でも屋に依頼が入るんだから、別に」
「名前が苦手なんだ、ネズミ」
「……………」
思わず無言になるティファ。つまり、そういうことか…と全てを理解した。少しの呆れと、少しの安心、複雑な気持ちが湧き上がってきて、思わず笑ってしまった。
「ちょっと、意外」
「ん?」
「クラウドが、そんなに過保護になるなんて思わなかった」
「…おかしいか?」
「ううん、こういう意味での執着は良いことだと思うよ」
特にクラウドは、それまで「興味ないね」が口癖で、人との付き合い方に一線を引いているように思えた。それでも彼の周りに人が集まるのは、クラウドの人柄に触れれば、ただ冷たいだけの人間ではない、とみんなわかるからなのだろうが…
そんな彼のことを近くで見ていたティファは、意外にも過保護を発揮するクラウドと、そんな彼に気を許し甘えることが出来るようになった名前を、微笑ましく見守っていた。
「で、その名前は?一緒じゃないの?」
「今、ウェッジの猫を見に行ってる」
そう言いながら、クラウドがチラリと壁の時計に目を向ける。「もう少ししたら迎えに行く」と小さく口にするクラウドに「心配性」とティファが笑った。
…嫌な、予感がした。そして、こういう予感に限って当たってしまうものだ。そういうものなのだ。そんなことを思いながら、本日の己の不運を恨んだのはビッグスだった。
「あのな、クラウド」
「……………」
無言の視線が痛すぎる。こうしている間にも名前の小さな啜り泣きがこの場に響いていて…本当に最悪の展開だ、とビッグスは思った。ちょうど名前の髪に手を触れたところをクラウドに見られたのだ。
屋根の上からでも飛び降りてきたのか、いきなりビッグスと名前の間にストンッと着地したクラウドを認識した瞬間、嫌な予感はしていた。
「俺は、別に」
「黙れ」
「……………」
低い声で一言そう言ったクラウドの手は、この場に現れた瞬間からすでに背中の剣の柄を握っている。これは、マジで斬られるんじゃないか…とすらビッグスが思った、その時だった。
今はクラウドの腕の中におさまっている名前が涙に濡れた瞳を上げ、クラウドを見つめる。そして、その細い指先がそっと彼の頬に触れた時、ようやく碧の視線がビッグスから離れ名前へと落とされた。
「違うの、クラウド」
「…何が」
「髪に虫、付いてて…ビッグスさん、気が付いて、取ってくれたの」
「……………」
「……………」
まさに、鶴の一声。あれだけ刺々しかったクラウドの空気がみるみる穏やかになっていき、握っていた剣からもゆっくりと手を離す。「勘違いさせて、ごめんなさい」と小さく謝る名前から顔を上げると、ビッグスが軽く両手を上げて見せていて…
「名前は虫、嫌いだもんな」
「…うん」
「側にいなくて、すまなかった」
「ううん…いつも守ってくれてるの、わかってるから。ありがとうクラウド、大好き…」
「…ああ、俺もだ」
目の前で甘い雰囲気を醸し出す2人。七番街スラム公認カップルとなっているこの2人に「相変わらずお熱いね〜」などと声をかけていく通行人も多い。
「…お前、その前に俺に、何か言うことがあるんじゃないのか…?」
脱力しながらのそんなビッグスの呟きはスラムの喧騒に掻き消されて行った。…今日は、飲もう。ウェッジを巻き添えにして飲もう。人知れずそう決意するビッグス。
クラウドの過保護、その被害者はモンスターだけでなく、七番街スラムの男性陣の中にも出始めているのだった。
後書き→
赤羽様よりリクエスト頂きました、『ビビリで泣き虫な女の子と恋仲になってからセコム化したクラウドの微ギャグチックな甘い話』という内容で書かせて頂きました!
思わずニヤケてしまう素敵なリクエストでしたのに、微ギャグがなかなか難しく、このような仕上がりになりました(^^;)完全な被害者となってしまったビッグスさんですが、個人的には大好きです(*^^*)
赤羽様、拙い文章ではありますが愛はこもっております!ほんの少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです!
この度は企画へのご参加&素敵なリクエスト、本当にありがとうございました〜(*^^*)
