確信犯な彼(長編クラウド)


  

「ダメだ」
「何で!?」

それは、もうすでに何度目かもわからない押し問答だった。
クラウドは朝からずっとこの調子…「ダメだ」の一点張りで、何だかあたしまでムキになってきている。それは事実だ。でも、それをおいても何故ここまで反対ばかりするのかもわからない。

「一緒にお祭りに行こうって言ってるだけだよ?」
「だから、ダメだと言ってる」
「浴衣だってせっかく新調したし、一緒に着ていきたいなって思ってクラウドの分も買ってたんだよ?」
「そんなことをする必要性がない」

何故、こう否定的な言葉ばかりが出てくるのか、あたしには訳がわからなかった。ここまで頑ななクラウドも珍しい…いくらこっちの世界に来ているとはいえ、向こうの世界ではまだまだ戦いの真っ只中。平和なこっちにいるとはいえ、楽しむのはちょっと…と言うことなのかと思って聞けば「そう言うことじゃない」と、それすら否定される始末。
何なんだ、この完全否定男は…

「だったら、もういいよ」

これほどまでに頑なになってしまっているクラウドを説き伏せることは、もはや不可能にすら思えて来た。かなりがっかりだが、仕方がない。あたしは小さくため息をつくと、近くにあった携帯を手にとって、操作を始める。
そんなあたしの様子にクラウドが思い切り眉を寄せたのがわかった。

「…何してるんだ?」
「ん…誰か、他の友達と行ってくる」
「それもダメだ」
「……………」

思わず、無言でクラウドのことを睨みつけていた。あれもダメ、これもダメ。

「何で?女友達だよ?」
「それでもダメだ」
「そんなにダメダメ言うんなら、ちゃんとダメな理由を説明してよ!あたしが納得するように!」
「だから…」

もうあたしだって我慢の限界で…語気を強めにクラウドを問い詰める。彼は一瞬言い淀んだ後、真っ直ぐにあたしの瞳を見ながら口を開いた。




耳に届く祭囃子。目に明るい提灯。新調したお気に入りの浴衣に袖を通して、繋いだ手には温かな温もり。
ご機嫌なあたしが顔を上げて、隣に目を向けると夜でも明るく輝いている碧色に優しく見下ろされて…気がつくとふふっと笑っていた。履いた直後はかなり苦戦していた下駄にも随分慣れた様子のクラウドが「何だ?」と聞き返してくる。

「一緒に来られて、嬉しい」
「…そうだな」

柔らかく微笑まれて、胸の中が暖かくなった。こうして一緒にお祭りに来られたのは、クラウドが折れてくれたからではない。彼のとんでもない誤解が解けたから、だ。

「クラウドの誤解が解けてよかったよ…ホント」
「あれは…仕方ないだろ」
「まぁ、否定はしない」

バツの悪そうなクラウドの表情と、誤解していた内容を思い出すと、今でも笑いが込み上げてくる。クラウドの認識の中では着物、浴衣=着崩すもの、という方程式があったらしい。確かに、あっちの世界で着物を着ていたのはマダム・マムのみで、彼女は美しい肌を見せ付けるかのように着物を大きく着崩していた。
どうやら、浴衣を着る、と言ったあたしまであの格好をすると思い込んでいたらしく、冒頭の完全否定が始まったらしい。クラウドにも話したけれど、あんな格好あたしには出来ない。ああいう格好は容姿が美しい人がやってこそ、似合うものだ。マダム・マムのように…

「クラウド?」

その時、手を繋ぎながら歩いていた彼がふと顔を上げたかと思うと、少し遠くを見つめ、目を細めたのがわかった。まるで、何かを睨みつけているみたいに…「え、どうしたの?」と素直に聞けば、彼は小さくため息をついて…

「…やっぱり、来るんじゃなかったな」
「えぇっ、何で??」
「名前を見てる男が大勢いる」
「そんなこと、ないと思うけど」
「アンタの浴衣姿が、綺麗だからだ」

いつになくはっきりとそう口にするクラウドに少し驚きながら「…そんなことないってば」と、もごもご反論する。しかも、あたしに言わせてみれば、クラウドの方が余程女の子たちの視線を集めている。金髪に、碧い瞳に、この容姿で浴衣を難なく着こなしているクラウドはものすごくカッコいい。
今も周りに鋭い視線を送っている彼を見て、やっぱり帰る、と言われてしまったら嫌だな…とぼんやり考えた。出店だって周りたいし、この後花火だってある。向こうの世界では出来ないであろう時間をクラウドと過ごしたい。

「クラウド…」

願望を込めて隣の彼を見上げると、繋いだ手を強く握り返された。不思議に思っていると、どうやら不機嫌にもなっていない様子のクラウドが「どこに行きたいんだ?」と聞いてくれた。ほんの少し意外に思いながらも、クラウドとまだこの時間を共有できる現実は素直に嬉しかった。パッと笑顔になるあたしは、彼の手を引っ張って…

「あのね、ヨーヨー釣りしたい」
「わかった」

頷きながら、わずかに微笑んでくれたクラウドの表情にあたしも思わず笑顔になる。嬉しくて、今にも走り出したい気持ちで彼の手を引いた。幸せな気持ち一心で、この時のあたしは気が付かなかったし、疑問にも思わなかった。
周りにいる人たちの視線を気にしていたはずのクラウドが、どうして何も否定的な言葉を口にしなかったのか…お祭りを堪能して、大満足だったあたしは帰宅して浴衣を脱いだ時、その理由に初めて気が付いた。浴衣からちょうど見えるうなじの部分にくっきりと残っていたキスマーク。彼がそのことに気付いていたことは明白で…

「クラウド、悪趣味!」

思わずそう叫べば、彼は「周りの男を牽制できてちょうどよかった」とあっけらかんと言い放った。ニヤリと笑った顔がカッコよくて思わず見惚れてしまったとか、昨夜のことを思い出して顔から火が出そうだとか、胸の内は言いたいことばかりなのに、クラウドに対しては何も言葉が出てこないまま…ガックリと肩を落とすことしか、あたしにはできなかった。


後書き→
rumine様よりリクエスト頂きました、『長編クラウド夢で、ヒロインの世界にいるときに2人でお祭りに行く甘夢』という内容で書かせて頂きました!
気付けば、かなり確信犯的なクラウドが降臨しておりました…(笑)まだ長編ではそこまで進んでいないのですが、クラウドは付き合い始めるとかなりの独占欲を発揮してくれるのではないか、と大変期待しておりますので、今回はその片鱗を出させていただきました(*^^*)
ヒロインちゃんの平和な世界でのんびりいちゃいちゃする2人…早く書きたい気持ちが加速いたしましたvvv
rumine様、素敵なリクエストをありがとうございました!ちょうど管理人の多忙時期と重なってしまい、随分お待たせして申し訳ありませんでした!拙い文章ではありますが、ほんの少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです!
この度は企画へのご参加&素敵なリクエスト、本当にありがとうございました〜(*^^*)

  

ラピスラズリ