case1:松田陣平の妹



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あれから3年、なんの因果かわたしも警視庁捜査一課、強行犯係に配属されることになった。
兄と萩原さんの仇を取りたい、そんな風に思わないでもなかった。ただ、兄がなし得なかったことを私にできるのか、兄がいなくなった今、何のために刑事をやっているのか、時々自問することがある。

結局現状は答えの出ないまま、日々巻き起こる数々の事件に追われている。


兄はたった一週間しか捜査一課には在籍していなかったはずだが、同僚の刑事たちはみな兄のことを覚えていた。わたしが松田陣平の妹だとわかると気を遣って話題に出さない人、兄の話をしてくれる人、反応は様々だった。

記憶の中から消えてしまったら、本当に兄がいなくなってしまうみたいで、わたしは自分の知らない兄の話が聞きたかった。


中でもわたしが松田であると名乗ったとき、一等驚いた顔をした女性がいた。
佐藤美和子刑事、彼女は兄が異動してからずっと行動を共にしており、あの爆発事件のときも現場にいたらしい。
わたしはあのとき○○で、現場にいたが、どうにもあの日のことは靄がかかったようにうまく思い出すことができなかった。

「あなたもしかして…松田くんの?」
「はい、兄がお世話になりました。わたしは松田陣平の妹です」
「…松田くんに妹がいたなんて知らなかったわ。彼、あまり自分のことを話さなかったから」
「そうかもしれません、兄は手先は器用だったけど、それ以外は不器用な人でしたから」

「そうだったわね」という佐藤さんは悲しげで今でも泣き出しそうな表情を浮かべる。
そういえば兄は捜査一課に異動してから口うるさい女刑事がいるとかなんとか話していたことを思い出す。
あの口ぶりだと兄はその刑事のことを気に入っていたようだったが、もしかしてこの人が…。
なるほど、美人だしなんとなく昔兄が好きだったあの人に似ているかもしれないと思った。



佐藤刑事と2人で事件の捜査に行く道すがら、
「佐藤さんのこと、兄から聞いたことがあったんです。」
「もう、あいつったら…」
「でもたぶん兄は佐藤さんのこと好きだったんだと思います。だからわたしもどんな人なんだろうって、会ってみたかったんです」
「松田さん…」

とうとう彼女は泣き出してしまった。「ごめんなさい」と。
この人はまだ兄の死を整理できていない、彼女もまた兄のことが好きだったのではないかと思った。

兄が死んで3年、わたしも兄のことを思い出さない日はなかった。
まだ犯人が捕まっておらず未解決事件となっていることもあってか、まだなんの区切りもついていないのではないかと感じる。
夢にも出てきてなにか伝えようとしてくるが、何を言っているのかよくわからずいつも目が覚めてしまう。

わたしはもう自分の記憶と、夢の中でしか兄に会えない。



兄の月命日には必ず墓参りをしているが、一度だけわたしや家族が供えたものではないタバコが置いてあったことがあった。
兄は萩原さんが亡くなってからあの警察学校時代の同期とみんなで墓参りに行っていたから、もしかしたら彼らのうちの誰かが来たのではないか、確信はないが不思議とそう思った。


もしかしたら…あの人が。
彼は、兄の葬儀には来なかった。来られない事情があったんだと思うが、兄がいなくなった今わたしには彼に連絡する手段はない。

彼が生きているのなら、純粋に会いたいと思った。


「俺になにかあって、お前が助けを求めるようなことがあれば、ゼロを頼れ」


わたしは兄が遺した、仲間との写真を手に取り、そして兄の最期の言葉をどう捉えるべきなのか、考えあぐねていた。







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