07
「頑張れ、リョーマくん!」
最初のポイントをとったのはリョーマで、決まった瞬間すずの隣に並んでいた1年生3人が拍手した。どうやらリョーマの応援団らしい。
「行けー!越前!」
「堀尾くんたちはリョーマの応援なんだね」
「えっ、あ、はい。でもなんで名前...」
「一応マネージャーだからね。みんな知ってるよ。1年生の堀尾くん、水野くん、加藤くん」
すずが一人ずつ名前を言い当てると、1年生トリオは驚いて顔を見合わせた。
「僕たち、まだ入部したばっかりなのに」
「入部したてでもなんでも、もうあなたたちは大事な部員だもん。名前くらい知ってるよ。私のことも覚えてね。2年のマネージャー、園田すずです」
「「「し、知ってます!!!」」」
「気をつけろよ、1年。我らがマネージャー様は怒ると怖ぇからな!」
「桃!余計なこと言わない!」
「ほらな、おぉ怖ぇ」
「桃!」
両手を上げて降参ポーズをとる桃城を睨むすず、2年生2人を見て1年生は戸惑い、3年生はまたやってるよと笑った。
「この調子なら、リョーマくん勝てるかも」
「でも、海堂先輩のアレ、まだ出てない」
2球目を構えるリョーマを見ながら、1年生たちは思い思いに話し出す。堀尾の言う"アレ"とはおそらくスネイクのことで、すずはよく観察しているなと感心した。そうこうしているうちにリョーマが2球目を放ち、ラリーが始まった。
「でも、なんでリョーマは右手で打ってるの...?」
「上手い!海堂の逆をついた!」
何往復かした後、リョーマが放ったショットは海堂の逆をついた。が、ボールが向かう先は深めの左サイド。これは海堂にとってはチャンスボールでしかない。案の定、海堂は不敵に笑うとスネイクを放ち、あっという間に1点を返した。
「アレだ、ビデオに映っていた技...」
「やっぱり研究してたんだ?えらいね。あれが薫くんお得意のスネイクだよ」
すずが説明してやると、1年生トリオは驚いた顔をそのまま向けた。
「スネイクって...今の技ですか?」
「そ。リーチの長い海堂だからできる技だ。右足から左足に体重が移動する瞬間にラケットを大きく振り抜き、異常なスピンをかけるショット。」
続いて桃城が詳しく説明すると、1年生トリオはへぇーと声を上げながら、真剣な眼差しで桃城を見つめた。
「あだ名がマムシで得意技もスネイク。とことん蛇なんだよなぁ、あいつ。顔も蛇顔だし」
「桃、一言多い」
せっかく素敵な先輩になりかけたのに、最後にふざけるのが桃城という男である。試合中で海堂の意識がこちらに向かないから良いものの、普段だったらここで喧嘩勃発は必至で、その間に入るのはすずの役目なのだ。
「へぇ、あんな角度で返すんだ」
コートから聞こえてきた声の方に目を向けると、愉しげに笑うリョーマがいた。しばらく海堂と視線を交わし合うと、リョーマは再び小さく笑って、ラケットを左手に持ち替えた。
「やっと戦闘態勢ってわけか」
「...まだまだだね」
構えながら挑発とも取れるセリフを吐くリョーマに、すずは呆れを通り越して尊敬の念さえ抱いた。
「まったく、先輩相手に生意気なんだから」
その後、ゲームは傍目から見れば互角に進み、リョーマは左右に振り分けられる球に食らいついていった。このまま行けばリョーマにもレギュラーに勝てるチャンスがあるかも、そうも思える試合だったが、それこそ海堂のテニス。スネイクを囮に相手を走らせて徐々に体力を奪っていくーーーまるでじわじわ相手の首を絞めていく蛇のようなテニスだ。そうでなくとも、今日は日差しが強く、気温も高い。体力の消耗は激しいはずだった。すずは照りつける太陽に目を細めると、桃城の腕をつついた。
「私、ちょっと部室に行ってくる」
言うとすずは部室に走り、自分のロッカーから団扇をたくさんつめたバッグを取り出した。ついでに小さなクーラーバッグも持って、観戦組の部員達に団扇を配りつつ、注意を促した。
「今日は暑いから、各々熱中症には注意してね。体調悪い人いたらすぐ報告!保冷剤欲しい人は声掛けてくださーい」
返事やらお礼やらが返ってくる中、不調を訴える声はまだなく、部員達の体調はまだ平気なようだった。途中、大石の所に寄ってそれを報告すると、大石は「本当に体調チェックもするところが園田だよなぁ」と呟く様に言った。
「リョーマたちの試合が終ったらすぐに戻りますので、それまでスコア番お願いしてもいいですか...?」
「もちろん。部員達の体調を気遣ってくれるのはいいけど、自分も気をつけるんだぞ」
「はい!ありがとうございます!」
大石に頭を下げてリョーマたちのコートに戻り、レギュラー陣にも団扇を配り終えたとき、試合は1-1。互角状態は変わらないように見えた。
20161002(20161003 修正)
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