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「あれ、園田?」
「お疲れ〜。まだ帰ってにゃかったの?」
部活終了後、着替えを済ませて部室を出たレギュラー陣は、同じく着替えを済ませてフェンスに持たれているすずを見て声をかけた。呼ばわりに顔を上げたすずは、小さなメモ用紙を手に彼らに駆け寄った。
「お疲れ様です!これ、今日の練習で乾先輩が仰ってたトレーニングポイントです」
言いつつすずは一人ひとりにメモ用紙を配った。説明のとおり、メモ用紙には乾が言っていた鍛えるべきポイントが書かれていて、分かりづらい筋肉には簡単な人体図のイラストとともに“ココ!”との注釈もあった。
「ありがとう、園田」
「お前仕事早ぇなぁ」
「えへへ...あ、リョーマ」
「何」
呼ばれて顔を上げたリョーマに、すずはニヤリと笑って言った。
「牛乳毎日2本、頑張ってね」
「別に俺は牛乳苦手じゃないし。頑張るほどの事じゃないね」
「んま!可愛くない!」
「すずの方が必要なんじゃないの?」
「まぁまぁ」
キーッとリョーマに飛びつきかけたすずを菊丸が止めつつ、大石が苦笑いながら間に入った。
「園田は牛乳が嫌いなのか?」
「えぇ、それはもう!」
「だからチビのままなんじゃないの?」
「リョーマに言われたくない!」
「すずよりはデカイし」
「ナマイキ!先輩って呼べ!」
「ヤダ」
遂に暴れだしたすずだったが、小柄な彼女がジタバタしたところで普段鍛えている菊丸はびくともしない。まるでキャンキャン吠える小型犬と、それを窘める飼い主である。
「昔は私よりチビだった癖に!」
「昔の話でしょ」
「リョーガお兄ちゃんにチビスケって呼ばれてたじゃん!学校でのあだ名もチビスケだったの私知ってるんだからね!」
すずがフフンとでも言いたげに少し嘲笑気味に言うと、リョーマが片眉をあげながら小さく言った。
「...shrimp」
すずの動きはピタリと止まった。
「SHRIMP」
「〜〜〜っ!!」
が、それも一瞬のこと。一時停止した頭がその単語の意味を理解した瞬間、すずは菊丸の手をスルリと抜けてリョーマに吠えた。
「What did you say!?」
「SHRIMP」
「How rude!」
「I just tell a TRUE story, huh?」
流石に取っ組み合いにはならないものの、すずが顔を赤くしていることから、それなりに真剣に怒っていることが周囲は見て取れた。しかしながら2人が喧嘩をしていることは分かっても、言っていることはさっぱり分からない。
「コラコラ2人とも!」
「おいマムシ、こいつらなんて言ってんだ?」
「知るか」
「俺もわかんなーい」
「園田、落ち着きなよ」
大石と河村が2人を(主にすず)なんとか宥めようとする隣で、桃城、海堂、菊丸は首を傾げていた。そうこうしているうちに再び部室のドアが開いた。
「Shrimp」
「て、手塚部長!」
「こちらまで聞こえていた。越前はShrimpと、そう言っただろう」
「あー、うん、言ってたかも」
「Shrimpは直訳すると小エビだけど、人に向かっていうと、チビって意味になるね」
手塚が呆れた様に、不二が苦笑いながら言うと、一同はあぁ、と腑に落ちた。その言葉はすずには禁句、怒るわけである。しかしリョーマとて言えばすずが激怒することは知っているわけで、となると彼は彼で"チビスケ"呼ばわりにかなり腹を立てたのだ。
「まったく…」
世話が焼ける、と手塚が止めに入るまですずとリョーマの口喧嘩は続いた。全員が苦笑いながら、最近お決まりとなりつつあるその光景を見守る中、乾は何かをノートに書き加えていた。
20180326
「What did you say!?(今なんて言った!?」
「SHRIMP(チビって言った)」
「How rude!(本っっっ当に失礼なんだから!)」
「I just tell a TRUE story, huh?(本当のことを言っただけだろ)」
乾メモ:越前・園田はキレると英語で捲したてる
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