01
『スネーク!スネエエーーーーク!』

デデテン、デンデン!

男性キャラによる盛大な叫び声が上がった瞬間、お馴染みの効果音が聞こえた。これは主人公が死んだときの効果音で間違いなかった。

上下とも中学時代のクソダサの使い古したジャージ。膝には擦り切れたような穴まで空いているし、裾はボロボロだ。そんな部屋着のままキッチンに立ち、ぼんやり、特に何も考えず水を飲んでいたわたしはまたスネークが死んだことを知る。
ちなみに今飲んでいる水は、ただの水道水である。浄水器は申し訳程度の性能のものを蛇口に取り付けていた。ボルビックだの洒落た水は冷蔵庫に入っているわけがない。

「ちょっと今となっては古いゲームなんだけど、このシリーズだと抜群にこの作品が好きなんだよ!メタルギアソリッド3な!戦時中の話でうんちゃらかんちゃらべらべら」とオタク女子筆頭のような止まらない語り口で話したとき、たった今、ゲームの主人公であるスネークを殺した青年はほう、どんなところが?といつもの真顔で問うてきたのでシナリオの良さ、時代背景などをさらに熱く語った。するといつもの静かな口調で是非ともやってみたいなどと抜かしたため、(是非とも、までは言ってなかったかも。わたしの妄想というか、多分盛ったわ)意気揚々とクローゼットからゲーム引っ張り出しそれを彼に手渡したのだ。実家から一式ハードごとゲームを持ってきてよかったと心から思った瞬間である。
ハードも今となっては邪魔だし嵩張るだけなんだけれども。
いかにも学生向けの狭いワンルームの中には、使わない古い据え置きのゲーム機とソフトが部屋の隅にもクローゼットの中にも積みあがりゴチャゴチャとしている。

そんなでも、ここはわたしの住まう城だ。

柳がやりたいって言わなかったら、埃を被っていたこのソフトが大学生活の中で日の目を見ることは無かっただろう。
柳がよく呆れながら言う通り、わたしの家にはガラクタで溢れている。ただそんな使わないガラクタ達を処分する気にならないのは、わたしが極端に面倒くさがりで整理整頓が下手という理由に尽きる。

「ねーそのボスの手前で死んだの何回め?ねえねえ」
「………12回目だな」
「あ、まだそんなもんなんだ」

ファミリーパックの大袋から三個ほどキットカットを取り出し、柳の隣のクッションに座った。いる?と彼に小袋を一個差し出すと柳は一瞬悩みながらもそれをとった。最初からもう一個多く出しておけばよかったと後悔。手元のチョコは残り二個。
甘いものをすごく摂取したい気分だったのに。二個か。足りないな。ただまた取りに行くのも面倒なので、二個で我慢することにする。
クッションの上であぐらをかきながら、一緒にゲーム画面を見つめた。

柳はぱきんとキットカットを袋の上から割りながら、はあっと溜息をひとつつく。

「諦める?クリアの仕方教えてあげよっか?」

にやにやと、自分でも分かるほどあくどい笑いを浮かべながら身を乗り出し柳を見ると、彼に開眼しながらやめろと怒られた。
糸目の柳が目を見開くとかなり怖い顔になる。あまりやらないで欲しい。

「絶対にクリアするから、黙って見ていろ」

画面を見つめなおした柳の白くて長い指が、神経質そうにコントローラーを握っている。
ゲームを嗜んでこなかった人種らしい柳は、最初は不慣れだった様子のその扱いにも今ではすっかり慣れた様子だ。
もうゲームも中盤に差し掛かっているので、小器用な彼からしたらそれも当然かもしれない。

そういえば柳だって部屋着なのだが、隣同士に座っていてもわたしとは全然違う。ちょっとお洒落な刺繍入りのスウェットにハーフパンツ。
そして彼はゲームをしていても背筋がピンと伸びていて綺麗だ。一本棒でもいれているのかと思うほどに。じ、とその背中のラインを見る。

彼はいつもわたしにお前はもっと背筋を伸ばさないとだめだと怒る。わたしは猫背が酷い。今更矯正するのもめんどくさいなと思うものの、柳のこういう部屋着を着ていても美しい背中を見ると、背筋がすっと美しく伸びていると、それだけで人は綺麗に見えるものなんだなと感じたりする。感心するだけで注意して自分が実践しようとはあまり思わないのだが。そう、やはり面倒なので。

柳はセーブデータを戻し持ち物リストを品定めしだしたので、そろそろボス戦をクリアしてしまいそうだ。わたしがやったときは全然出来なくて、何度もやって諦めて攻略サイトを見たのに。

頭のいい人ってむかつくなぁ。ねたましい。

クッションの上でそのまま一回転、柳の腕を蹴り飛ばすと結構強い力で足を抓られた。地味にいたいんですけど。

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