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女子の友人と男子の友人とは、どれほど付き合い方が違かったか、思い出そうとしても難しい。
わたしの男性の友人は、前の人生を含めてもシャツ以外には殆どいなかった、という事実を思い出してしまったのだ。
今の人生で丸井やジャッカルと一緒に遊んだ時には、よく公園に行ったり駄菓子を買いに行ったりと男子小学生らしい遊びをしていた。長期にわたり熱中したわけではなかったが、カードゲームなどでも遊んでいた。彼らに振り回される形に近く、わたしは保護者を兼ねるような一歩引いた気持ちでともに過ごしていたのは確かだった。
それでも彼らが楽しそうだったので、それで構わなかった。楽しそうな彼らを見るとわたしも楽しかったから。

しかし、幸村はどうだろう。
彼は既に中学二年生であり、同年代の少年たちと比べてもかなり大人っぽい。ゲームなどにはまりこむタイプでもなさそうに見える。丸井としたような遊び方とは違う付き合いになるだろう。
シャツと幸村でも全く違う。シャツとのような付き合い方は難しい。

わたしとシャツは親しすぎた。そしてシャツは、わたしが成長するまでは保護者をしている気持ちもあっただろう。それこそわたしと丸井のような関係性の時期もあったのだ。
大人になってから彼としていたことと言えば、互いの家でゲームをすることもあったものの、写真を撮りにいったり映画を観に行ったり、甘いものや美味しいものを食べに行くことは勿論、旅行にだって行った。海外旅行もシャツと一緒だったのだ。
彼はときに女友達のようでもあり、家族のようでもあり、恋人のようでもあったのかもしれない、と今では思う。わたしはシャツを男性としても好きだった。シャツはどうだったのだろう。非常に曖昧だ。そしてその答えを知ることはもうない。

幸村とは、美織と築いたのような関係性になりたいのだ。どちらかが見守るような形は相応しくない。対等に色々話せて共にいて楽しい。そんな風になりたい。
男性として彼を好きなわけでもない。
幸村は非常に聡い青年で、恋愛に苦労はしなそうなので、存在感が希薄で非常に地味なわたしを好きになるはずもない。なのでどれだけ彼自身と親しくなろうと問題ないと思うのだが、もし親しくなれた場合、この思春期の真っ只中では周囲からは恋愛関係なのかと勘ぐられるだろう。出掛けるとしたらやや遠出する必要がありそうだ。幸村に迷惑をかけるわけにはいかない。
そして最初に何を話したらいいのか。どう仲良くなっていけばいいか。美織の時のように、日々の宿題というきっかけもない。
どうしたら彼が病で倒れる未来を避けられるのか。見切り発車で彼に話しかけたはいいもののとても悩ましい。

間違えられない。彼から信頼を得たい。

リビングの椅子に腰掛けながら、スマホをテーブルの上に置いてずいぶんと悩む。
連絡先を交換したはいいものの、トーク画面を前にして十分ほど固まってしまった。
どうしよう。

ちょうどその時、棚にある画集が目に止まった。

夏の美術部の展示会が終わった今、冬の展示会に向けた美術部の作品の題材をまた考える必要があった。終わったばかりで気が早いと思われがちだが、わたしは絵の題材を決めるまで、かなり長く時間がかかる。
幸村を誘った美術部の合同展示会に、彼が実際足を運んでくれたかは定かではないのだが、彼は美術に対してかなり関心が高い。
ルノワールやモネ。棚にはモネの画集がある。モネはかなり有名どころの画家であり、わたしもこうして画集を持っているし、それなりの知識はあった。幸村も確か好きではなかったか。これをきっかけに親しくなれないだろうか。
上野の展示会スケジュールを見ると、ちょうど開催期間中である。神奈川からしたら、距離はあるが行けない距離でもなくちょうどいいと思えた。
誘ってダメなら、また違う方法を考えればいい。