裏の顔

今日は綴君の脚本の期限の日だ。今日脚本が出来ていなければ途中まで出来ていようが問答無用で他の脚本を使うことになってしまう。可哀想だけど、旗揚げ公演のことを考えると仕方のない判断だった。真澄君曰く、PCに同化してるとのことだが無理をし過ぎて体調を崩していないか心配だ。

「綴君のところへ行ってくるね。」

「俺も行きます!」

「ワタシも心配ダヨ。」

「あんたは行くの?」

『うん、私も行くよ。』

「なら俺も行く。」

「至さんはどうしますか?」

「悪いんだけど、俺は部屋に戻らせてもらってもいいかな?今日の稽古も休みたいんだ。昨日の夜から体調が悪くてね。」

『大丈夫ですか…?』

「うん、大丈夫。少し休めば治ると思う。ありがとうかえでさん。」

至さんは部屋へと戻り、私とお姉ちゃん、そして咲也君、シトロン君、真澄君は綴君の部屋へと向かった。ドアをノックしても返事がなかったのでお姉ちゃんと慌ててドアを開けた。すると部屋の中には倒れた綴君の姿が。最初は本当に救急車を呼ぶ事態かと思ったが、どうやら寝ているだけみたいだ。

「PC。」

『え?』

「PC見て。」

真澄君は私の袖をくいっと引っ張り、PCを見るように言った。私は綴君のPCの傍に行き、画面を見た。すると、そこには"書けた"の文字が。

『お姉ちゃん!綴君!脚本書けてる!』

「本当に!?良かった…ちゃんと脚本書き上げたんだ…。よし、すぐに印刷しよう!」

「俺、やります!」

「お願い。」

良かった、綴君の努力が無駄にならなくて。とは言ってもまだ内容を見ていないからなんとも言えないが、きっと素晴らしい脚本だと思う。

「印刷出来ました!」

『ありがとう咲也君。』

「ええと、タイトルが、"ロミオと"……"ジュリアス"…?」

『………。』

すごい、ジュリエットを男の人にしたんだ。内容もとても面白い。これ、成功すればきっとすごいものになる。

「監督!脚本!」

「綴君?もう起きたの?」

「きゃ、脚本、どうっすか…?」

「ばっちり、来月の公演はこれでいこう。」

「本当っすか?」

『綴君、すっごく面白い脚本だった!』

「っしゃー!良かったああ…。」

本当に脚本書きたかったんだなぁ。喜ぶ綴君を見て、私も嬉しくなった。どうやら綴君の体験をヒントに脚本を作り上げたみたいだ。ここまで完成度が高い脚本は本当にすごい。

配役も当て書きにしたみたいで、ロミオ役が咲也君、ジュリエット役が真澄君、マキューシオ役が綴君で、ティボルト役が至さん、そして神父役がシトロン君らしい。配役もばっちりだ。

「よし!これから旗揚げ公演まで頑張っていこう!」

「はい!」

「あ、かえで。至さんのところに脚本渡してきてもらってもいい?」

『うん、心配だから様子も見てくるね。』

「俺も行く。」

『真澄君は脚本読み込んでてね。』

脚本とペットボトルの水を持って至さんのドアをノックした。

『至さん。立花です。あ、かえでです。開けても良いですか?』

私が声をかけた瞬間、なんだか部屋の中からドタバタと音が聞こえる。体調悪いのに大丈夫かな。出直した方がいいかもしれない。

『至さん、お水と脚本だけここに置いて…きゃっ…!』

ドアが突然開き、部屋の中から出てきた大きな手に腕を引かれた。私はなすがまま部屋へと引っ張り込まれてしまう。すぐさま閉められたドアに押し付けられ身動きが取れない。部屋も薄暗くて、至さんの顔がよく見えない。奥のテレビが光っていて、その周りの散らばったゲームだけ確認出来た。

「隙だらけ。こんなに簡単に引き込まれるんじゃ、この先心配だな。」

『至…さん…?』

暗い部屋に目が慣れてきたみたいで、だんだん至さんの姿がはっきりと見えるようになった。しかし、はっきり見えたのは私が普段見ている至さんではなかった。

『!?』

「また会ったね。って毎日会ってるか。」

『なっ、えっ、』

「ははっ、驚いてるね。」

『私を助けてくれた…っ、至さんだったんですか…!?』

見覚えのあるスカジャン、そして前髪を上げ、おでこを出すその姿は以前私を変な勧誘なら救ってくれた人そのものだった。

「全然気付かないからいつ気付くかなとは思ってたけど、全然わからなかったみたいだね。」

『わっ、わからないですよ…!と言うかなんで言ってくれなかったんですか!』

「面白かったから。」

普段の至さんからは考えられないくらい楽しそうな笑顔だった。まさか至さんがあの人だったとは。至さんに感じてた既視感はこれだ。

『と、とりあえず一旦離れましょう。』

「無理。」

『!?』

「俺とイイコトしに来たんでしょ。」

耳元にそっと囁かれ、体中がゾクリと震えた。思わず横にズレて逃げようとしたが、頭の横に手を置かれ、いわゆる壁ドンの形になってしまった。

「逃げなくてもいいだろ。」

『至さん体調悪いんですよね…っ?安静にしてないと…!』

「体調…?ああ、そうだった。じゃあ俺と一緒に寝ようか。」

どうしよう相当具合が悪いんだ。とにかく体調が悪い時は睡眠が大事だ。私も体調を崩した時は特に多くの睡眠を取ることを心掛けている。私は至さんの腕を掴み、ぐいっと引っ張った。至さんは意外と素直に腕を引っ張らせてくれたので、そのまま引っ張り続けてベッドへと向かう。

『寝てください。』

「え?マジか。ホントに一緒に寝てくれんの。」

『寝転がりましたね。ちゃんとお布団は肩までかけてください。おでこのゴム外しますよ。お水と脚本ここに置いておきますからね。』

テキパキと迅速に対応をし、速やかにベッドから離れる。至さんはポカンと口を開けていたが、気にするのはやめた。

『ちゃんと休んでくださいね。何かあったら呼んでください。それでは、至さんおやすみなさい。』

「お、おやすみ…。」

至さんに挨拶をし、部屋を出てパタン、とドアを閉める。なんだかこの短時間でどっと疲れてしまった。明日にはちゃんと体調良くなってるといいなぁ。

「ははっ、調子くるうなぁ。」