春色に咲く
「…すごい、今までで一番大きい。」
「スタンディングオベーションだ…。」
「どうなるかと思ったヨ!」
咲也君や綴君はあまりの拍手の大きさに驚いていた。お姉ちゃんはすぐに至さんに氷を持っていき、そばに駆け寄る。
「至さん、足、大丈夫ですか!?」
「ーーっ、」
『!!』
「えっ、至さん!?そんなに痛いんすか!?」
何かが弾けたように至さんはぽろぽろと涙を落としていった。その姿に思わず春組の皆は驚く。
「救急車。」
「違ーー、」
「違う?」
「なんか今…今までの人生でないくらい、自分が熱くなってて、笑えるだけ。」
「泣いてんじゃないすか。」
「シトロンさんみたいにですよ!」
「ワタシ、泣くと笑う間違わないヨ!深海ネ!」
「心外、間違ってる。」
『私じゃなくて、至さんが泣いてるじゃないですか…。』
「うん、ここに来てから想定外のことばっかり。」
『飽きないでしょう…?』
「うん、最高だよ…、」
『きゃっ、』
「ありがとう、最後まで舞台に立たせてくれて。」
手を引かれ、上半身が前に傾く。予想もしていなかった温もりに包まれて、一気に熱が顔に集中した。
『いっ、至さんっ!?』
「殺す。」
「落ち着け真澄!」
「ぷっ、あははは!」
「はは…、」
『ふふ…っ』
きっと、今日は皆にとって忘れられない日になる。本当によかったーー。
***
千秋楽を終えた後は今まで支えてくれた人達が控え室に来てくれた。雄三さんに瑠璃川君、そして三好さんに鉄朗さんも。本当に色々な人に支えられてきた。雄三さんが入ってきた時はそっと出て行こうとしたが、横を通り過ぎる瞬間に軽くラリアットをされて止められた。無言で頭を撫でくりまわされなんだか泣きそうになった。
そして至さんは劇団を続けてくれるそうだ。ゲーム以外の面白いものを見つけた、と言ってくれた。咲也君が本当に喜んでいて、私もホッとした。座長とは関係なく春組のリーダーは咲也君となった。皆に囲まれるその様子は見ているこっちが笑顔になるくらい幸せそうな光景だった。
観客も帰り、団員やお姉ちゃんが寮へと戻っていったが、私はしばらく舞台から離れることができなかった。
「何やりきった顔してるんだ。」
『左京さんっ!?まだ帰ってなかったんですか?』
「電気がついてるから、不審者かと思って確認しにきてやっただけだ。」
『そ、それはすみません…。』
「腑抜けてる場合じゃないぞ。ようやく一公演終わっただけだからな。まだ年内に残り公演三本、新メンバー五人ずつ集めるんだぞ。」
そうだ、春組公演が終わったからって安心してはいけない。新メンバーを集めて残り三本も公演を行わなければならない。これからが忙しくなるだろう。頑張らなきゃ。
「目が覚めたみてえだな。せいぜい、この調子で気張るんだな。」
『左京さんってやっぱり面倒見がいいですよね…。それに昔のMANKAIカンパニーも知ってるみたいでしたし…。もしかして私、幼い頃に左京さんに会ったことありますか………?』
「!!…………、」
『左京さん…?』
「…さぁな。」
『むぐっ!』
「お前はまだ知らなくていい。」
『鼻摘まないでください〜っ!』
左京さんの様子がおかしかったので首を傾げていると、そんな様子が気に食わなかったのか彼は私の鼻をむぎゅっと摘んできた。
「で、目星はついているのか。夏組メンバー。」
『まず鼻を離してください。』
「ふん、ほら。」
『はぁ、やっと解放された…。えと、お姉ちゃんと相談してなんとなく目星はついてます。なんとなくですけど。本人の意思を尊重したいのでどうなるかはわかりませんが…。』
「そうか、ならいい。」
左京さんと少し話しをしていると、携帯がピロンピロンとなり始めた。ちらりと画面を見ると、真澄君からのLIMEがきていた。
『ま、真澄君からすごいLIMEがきちゃった。行かなきゃ…。』
「…おい。」
『はい、なんですか…?」
「お前は俺のものだってこと、忘れるなよ。」
『は、はぁ…借金返してないですもんね。わかってます。』
「ちっ!!」
『ひえっ!なんですかそんな舌打ちして!』
「うるせえ。早く行け。」
この時の私は、左京さんが言ったことがどういうことか全く理解出来るはずがなかった。彼の言葉の意味に大きくて切ない感情があることすら、わからなかった。
『戻りました。』
「おかえりなさい!かえでさん!」
「遅い。おかえりかえで。」
「おかえりっす!かえでさん。」
「おかえりなさいダヨ〜かえで。」
「おかえり、かえでさん。」
こうして笑顔で迎えられるのがこんなにも幸せなことだと思わなかった。温かい私の大切な居場所。残りの公演も成功させて、絶対にこの笑顔を、この場所を守るから。
このMANKAIカンパニーを満開に咲かせてみせます。
『春色に咲く』〜fin〜