また夢を繋いで

いよいよ千秋楽の日がやってきた。

「客席、満席ですね。」

「なんか、今までで一番熱い感じがする。」

「それだけ皆への期待が高いってことだよ。」

「ドキドキします。」

「台詞忘れるなよ。」

「大丈夫だよ!」

咲也君はとても緊張しているように見えるけど、その表情はどこか頼もしくて、ああ、この子ならきっと大丈夫だと安心させてくれた。問題は至さんだ。だいぶ足を酷使している。テーピングをしても痛みを抑えきれないところまできている。

『至さん…。』

「大丈夫、最後までやりきるよ。」

『…っ、』

そんなに辛そうな顔をしてるのに、大人ぶらないでください。でも、私は彼を舞台に送り出さなきゃいけない。彼が舞台に立ちたいというなら。それが私の仕事だから。

「あ、そこの人、関係者以外は立ち入り禁止ですよーー、」

「うるせえ。」

「『?』」

何事かとお姉ちゃんと顔を見合わせた。その直後、少し乱暴に控え室のドアが開けられる。ドアを開けたのは左京さんだった。

「ジャマするぞ。」

「おうおう、いてまうぞワレー。」

『さ、左京さん!?迫田さんも!』

驚いていると私の前に真澄君が庇うように立った。睨み合う左京さんと真澄君。なんとなく背中がゾッとした。

「約束通り、観に来てやった。」

「そうですか。約束通り、満員にしました。」

「ああ、とりあえず第一関門は突破したようだな。」

『こ、これで劇場は取り壊されないんですよね…!』

「ひとまずは、な。」

「『よかった…。』」

ひとまずでもいい。この劇場が壊されないのなら。本当に良かった。

「ただしーー、」

「ただし?」

「埋めた客も満足させなきゃ意味がない。劇団が安定した収益を上げるにはファンの獲得が必須だ。そのためにもーー、」

「また、談義が始まった。」

「意外と長いですよね。」

左京さんの劇団をどう安定させていくかの談義が始まった。詳しいし、とてもためになる談義だ。この人はこの劇場を大切にしてくれているのかもしれない。どうでも良かったらまず一ヶ月も待ってくれないだろう。

『ふふっ…、』

「何がおかしい。人の話をちゃんと聞いているのか。だいたいお前は人の話を聞いているようで聞いてないからな。ぼーっとし過ぎだ。そんなんじゃいつかつけ込まれーー、」

『わーっ、笑ってすみません!そんなに怒らないでくださいっ!左京さんはやっぱり優しい人だなって再確認しただけです!』

「やさっ、…ふん、行くぞ迫田。」

「あいあいさー!」

「………今日の劇場は、昔を思い出すな。」

『え…?』

昔を思い出す…って、左京さんは昔の劇場を知ってるのかな…。何か大切なことを忘れてしまってる気がする…。

「開演五分前でーす!」

「皆、行ってらっしゃい。」

『行ってらっしゃい。』

まどろっこしい言葉はいらない。千秋楽だからって何も特別なことはない。いつも通りでいい。楽しんでくれればそれでいいんだ。どうか、無事に終わりますように。

***

公演は順調に進んでいた。このまま突っ走れば千秋楽も大成功だ。

「至さん…様子がおかしい。動きが小さいし、足を庇ってる…?」

やっぱり、至さんの足は限界だ。皆も怪我に気付き始めたのか少し動揺してる。三幕で退場した後はどうにでもなるけど、それまでもつかわからない。

「ーーっ、」

「『!?』」

ティボルトが倒れるシーンで、至さんは反射的に足を庇い、倒れることを忘れてしまった。舞台の上で緊張が走る。観客もいつもと違う展開で動揺していた。

「すみません!一旦幕をーー、」

『ダメ!』

「かえで!?」

『まだ、まだ降ろしちゃダメ。』

まだ幕は降ろしちゃダメ。この舞台に夢を持って立っている彼がいる。彼ならきっと大丈夫だからーー。

「"やめろティボルト!もう戦いは終わったんだ!"」

"The show must go on"

だよね、咲也君。

「"剣を下ろせ!"」

「"死ね!ロミオ!"」

幕が下りるその瞬間まで、終わらないんだ。ねぇ、咲也君。咲也君はきっと、あの頃の役者さんみたいになれてるよ。どんなことがあっても演じ続ける強さを持って、また誰かに夢を繋いでいくんだ。

こうして、"ロミオとジュリアス"の千秋楽の幕は閉じた。今までにないくらい大きな拍手の中でーーー。