脅されて結婚しましたA
(脅されて結婚しましたの続き)
正直、結婚した事実に実感を持たなかった。結婚式は神前式で速やかに執り行われ、 各所へのご挨拶に追われた。主に私が。沢田さんからはなんとも生暖かい視線を送られたが私はただただにっこりと愛想を返すしかなかった。
「まさか本当に結婚するとは思わなかったよ。」
『沢田さんの差し金ですか?』
「ちっ違うよ!!」
『そうですか、てっきり銃で脅してもいいから結婚してこいって沢田さんに脅されたから彼が結婚を申し込んできたのかと思いました。』
「え、まさか、脅されたの…?」
『ええ、それはもうお手本のように額にあてがわれて。ドラマチックなプロポーズでしたね。』
思い出すだけでむしゃくしゃする。彼は1人の女の人生をいとも簡単に奪ったのだ。こんなことになるならボンゴレと関わるんじゃなかったと何度でも思ってしまう。
「もしかしてヒバリさんが何でみょうじさんを選んだのか聞いてない?」
『遠回しに地味で質素だからって言ってましたね。』
「ちっ違うよ!!ヒバリさんが貴女を選んだのは…!」
「沢田綱吉。」
「ひっ!!」
話していた沢田さんの首にトンファーがひたりと当てられた。こんな時まで武器を携帯してるのね彼は。
「余計なことを言ったら咬み殺す。」
「ひぃっ!すみません!!」
「君も何群れてるの。」
『夫の上司に挨拶するのは妻の役目ですから。』
「勘違いしないで。上司じゃない。」
落ち着け私。今キレたら笑顔で愛想を振りまいた意味がなくなってしまう。私は、そうですか、と一言言ってその場を離れた。
「ひ、ヒバリさん言ってないんですか?」
「君には関係ない。口を滑らせたらどうなるかわかってるよね。」
「わかってます!!」
***
『はあ、疲れた。』
やっと一息つけるのはもう日付が変わるという時間だった。寝支度を整え、私は雲雀さんに与えられた部屋へと足早に向かう。今日に関しては早く体を休めたいの一言に限る。襖を開けるとすでに布団が敷いてあり、私はすぐに体を預けた。
『なんか妙にいい匂いがする部屋…、』
畳の匂いじゃない、香を焚いたような匂いだ。無駄に広い部屋を与えてもらったが物が無さすぎて寂しいな。もっと狭い部屋でいいのに。物置とか。
「ちょっと、なに先に寝ようとしてるわけ。」
『!?な、なんで入ってきてるんですか!?』
「なんでって僕の部屋だからでしょ。寝ぼけてるの?」
『え、私部屋間違えた…?』
「間違えてないよ。僕と君の部屋だ。」
雲雀さんと、私の、部屋?
いやいやいや、こんなに広い屋敷の中でわざわざ2人一緒の部屋なんて彼は一体何を考えてるんだ。他に部屋なんていくらでもあるだろうに。
『私、別の部屋でいいですから。物置とかもっと狭い部屋でも寝れます。』
「そんなところで寝かせるわけないでしょ。君は僕の妻なんだから。」
『じゃあせめて寝室は分けてください。雲雀さんだってよく知らない女と眠れるんですか?』
「くどい。それに今日は初夜だけど。それでも別々で寝るつもり?」
『初夜だからなんですか…?』
「わからないの?」
わからないの?と聞かれても別に何か特別なことはない。うーん、と考えると肩をぽんと押されて布団に倒れた。何を思ったのか彼は私の上に覆いかぶさってくる。え、待って、初夜って、
『え、まさかそういうことじゃないですよね?』
「夫婦の務めでしょ。」
『いやいや!なんでです!?女避けに結婚しただけじゃないですか!別に形にこだわってする必要ないですよね!?』
「僕に一生我慢させるつもり?」
『雲雀さんならそういう人達が寄ってくるでしょう!』
「ふぅん。じゃあ無理矢理でも抱こうかな。僕は君以外抱くつもりはないし。」
『仮にも貴女の妻ですけど!?』
「わがままな妻を調教するのも夫の務めだからね。」
ダメだ、話が通じない。話して通じる相手だったらそもそも結婚してない。どうにか逃げようとしたが、両手を布団に縫い付けられた。
「諦めなよ。君は逃げられない。」
『ひっ、…や、やめてください…!』
首筋にぬるりとした生温かい何かが這う。男の人とこういうことをするのは初めてじゃない。でもこんな無理矢理するような行為は嫌だ。
『や、です…、雲雀さん…っ、』
「!!…なんで泣いてるの…。」
恐怖が振り切っていつの間にか涙が流れ落ちていた。みっともないのなんて分かってる。それでも好きでもない人とこんなことしたくない。顔を上げた雲雀さんはひどく驚いた顔をしていて、すぐにバツの悪そうな顔をした。
「…やめるから、泣かないで。どうしたらいいかわからなくなる。」
私の目尻に指を滑らせる彼は本当に困っているようだった。困っているというより、戸惑いだろうか。あの雲雀さんがこんな表情をするなんて。
『すみません泣いて…、でもこういうことは好きな人じゃないと嫌です…。』
「…………。」
彼は私を起こすと、少しだけ何かを考えるような素振りを見せた。そして、私をまっすぐ見据える。真剣な瞳に少しだけどきりとした。
「なら君が僕を好きになればいいんだね。」
『ま、まぁそうなりますかね…。』
「…分かったよ。今は手を出さない。」
『!本当ですか…!』
「ただし、絶対君には僕を好きになってもらう。僕を好きになったらもう待たないよ。覚悟してて。」
そう言って私の額に口付けを落とし、不敵に笑う雲雀さん。そして私の隣で布団に入り始める。
「ほら、寝るよ。」
『え、結局別々じゃないんですか?』
「手は出さないけど別々で寝るとは言ってない。君も譲歩して。」
『……………わかりました。』
私は諦めたように雲雀さんの隣で布団に入る。すると彼に抱き込まれるように腕の中に引き寄せられた。
『ちょ、ちょっと!!』
「僕は覚悟して、って言ったよ。どんな方法でも使うつもりだから。」
『〜〜っ絶対好きになりませんから!』
絶対好きになんかならない。こんな身勝手で強引な人。私はそう胸に誓い、彼の腕の中で眠りについた。
この時の私は数ヶ月後には彼を好きになってるなんて思いもしなかったのだった。
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