「お、おい見たか!」
「ああ!想像以上の美しさだった!」
「俺も早く見てぇ!」
「食堂だ!急げ!」

今日の正午は今までで一番の賑わいを見せていた。その理由はほとんどの海軍が望んでいた通称ローレライが食堂に現れたから。食堂には多くの海兵が集まっていたが、食事を行う真珠には誰も近づこうとはしなかった。何故なら視線で人を殺せるのではないかというくらいの形相をする男が傍にいるからだ。

「ちっ、なんで俺が」
『すみません……』

センゴクさんから部屋から出ていいとお許しが出た翌日、さっそく正午から部屋を出た。そして初日の護衛は何故かスモーカーさんだった。心底面倒だ、と顔に出ている彼を少し気の毒だと感じた。部屋を出ることができたのは良かったが海兵の方々にあまりにも好奇な目を向けられているため、気を抜いて食事すら出来ない状態だ。そんな海兵さん達に呆れているスモーカーさんは頬杖をついて海兵さん達を睨んでいた。

『明日からはやっぱり部屋で食べますね』
「あぁ?」
『皆さんに迷惑をかけてしまうので…、』

迷惑をかけている自覚はある。せっかく部屋の外に出ることができたのはいいが誰かに迷惑をかけては意味がない。迷惑をかけるくらいなら大人しく部屋にいた方がマシだ。

「テメェは俺に怒鳴られても歌い続ける度胸はあんのにこれだけの海兵に見られるだけで部屋に籠るほどしおらしい奴だったかぁ?」
『でも、私のせいで…』
「悪ィことしてるわけじゃねぇんだ。堂々としてろ」
『っ、はい』

彼の言葉に心がじんわりと温かくなった。陸に上がってから人の温かさに触れる機会が多かった。決して良い人達ばかりではないけど、人魚だった頃よりはずっといい。

「あれま、部屋から出たってのは本当だったのか」
「青雉…、」
『こんにちはクザンさん』
「おー、ローレライ。今日も美しいねぇ」
『クザンさんはやっぱり意地悪です』
「あんまりからかってやるな青雉」
「そりゃあ悪かった。あんまりにも可愛くてつい」
「あんたが言うと冗談に聞こえねェ」

私の隣の席にクザンさんが長い足を組んで座った。その様子に海兵の方々は恐れおののきさらに遠巻きにこちらを見ていた。

『ここのお料理は美味しいですね』
「あー日々働く海兵の為に栄養ある食事が揃えられてんのよ」
『そうだったんですね、本当に美味しいのでついたくさん食べちゃいそうです』
「テメェはもっと食え。その細っこい腕をどうにかしろ」
『ここに来る前よりは食べてますよ?それに気を抜くとすぐに太っちゃうんですからね』
「女はちょっとお肉がついてた方が触り心地い…なんだよスモーカー。冗談だ」
「だろうな」

仲良いなぁスモーカーさんとクザンさん。あ、このパスタ美味しい。程よい塩味が効いている貝のパスタはお肉や魚が入っていないので私でも美味しくいただけるのだ。お肉や魚は食べないから食事も限られているけど陸の人達が食べるものは本当に美味しい。

「…」
「…」
『あの…?なんですか?』
「いやぁ真珠ちゃんがあまりにも美味しそうに食べるもんだから…」
「顔がだらしねぇ」
『ごほっ、酷いですスモーカーさん…!』

あまりにもスモーカーさんの言葉が直球過ぎて思わずむせた。仕方ないじゃないですかここのご飯美味しいんですから。