優しさに微睡んで

夏組のリーダーも決まり、次はどんな演目にするかのミーティングが開かれた。なんと全員が主役を希望し、改めて春組とは違う個性を感じた。

「ふーん、夏組も大変そうだね。」

『大変かもしれないですけど、個性的で公演が楽しみです。』

夜、バルコニーで夏組の稽古メニューを考えていると至さんが話しかけてきた。夏組の様子を話すと、少しめんどくさそうな表情をしていた。

「うちは座長が咲也だったからね。一生懸命でいい子だし、頑張ってくれたよ。」

『そうですね。でも咲也君だけじゃなくて春組の皆さんも頑張ってましたから。』

「俺も?」

『もちろんです。』

「じゃあご褒美ちょーだい。」

『ごっ、ご褒美ですか!?』

「うん。」

突然いたずらを思いついた子どものように笑う至さん。ご褒美なんて言われても急には思いつかない。ご褒美ってことは至さんが喜ぶことじゃないといけないよね…?

「なーんて、ね………!?」

『よく…頑張りました…?』

至さんのふんわりとした柔らかい頭をゆっくりと撫でる。これが正解なのかわからない。私がこうされるのが嬉しいだけかもしれない。今更になってとても恥ずかしくなってきた。どうしよう、恥ずかしすぎて涙出そう。

「ちょ、っっっと待って。」

『ごっごめんなさい!こんなのご褒美にならないですよね!』

「いや、あの、すごいご褒美なんだけど。」

『え?』

「なんでもない。なんでもないんだけど今の絶対他の男にはしないで。わかった?」

『は、はい。』

至さんに両肩を掴まれ念を押された。大丈夫です至さん。こんな恥ずかしいこと他の人には出来ません。

「かえでさんは、今のされると嬉しいの?」

『うーん、安心…、します。』

「そっか、じゃあ…はい。」

『!?いっ、至さん!?』

大きく温かい手が私の頭をゆっくりと撫でた。突然のことで、一瞬何が起こったのかわからなかった。ただ、彼の表情があまりにも優しくて、どう反応していいかわからない。

「かえでさんはいつも頑張ってるからね。」

『私なんて…、お姉ちゃんの方が私よりいっぱい頑張ってます。』

「監督は監督。かえでさんはかえでさんでしょ?二人とも頑張ってるよ。」

どうして私が欲しい言葉をいとも簡単に与えてくれるのだろうか。優しさに甘えてしまいそうになってしまう。ダメなのに、私はもっと頑張らないといけないのに。

「こーら、」

『!』

こつん、と額に軽い衝撃。触れ合う額。急に縮まる距離に戸惑いながら、遠慮がちに彼を見た。

「また難しい顔してる。」

『し、してました?』

「してたよ。」

『すみません…。』

「こういう時は素直に撫でられてればいいんだよ。難しい事は考えない。」

『はい。…ありがとうございます至さん。』

「どういたしまして。」

彼の優しさにまた泣きそうになってしまった。私が何を考えているかなんてバレバレのようだ。だったら今は彼の優しさに甘えてしまおう。

きっと、それが許される時なのだから。