私は委員長様のもの
ああ、またあの委員長様は。
もはや日課となりつつある、委員長様探し。天上天下唯我独尊の委員長様に頭を抱えた。何度あの下級生に絡んでいるところを見ていることか。
すぅ、と大きく息を吸った。
『委員長!』
「はぁ、何?」
なんとも面倒そうな顔をして、こちらを見る学ランの男子生徒、彼はこの世界で一番並盛中を愛す雲雀恭弥。
『何?じゃないですよ!また下級生に絡んで!』
「星影先輩っ!」
私の名を呼び、こちらを見る気弱そうな男子生徒。よく委員長に絡まれて咬み殺されている沢田綱吉。
『そろそろ沢田君に絡むのはやめてあげてください!!』
「星影先輩、抗議してくれるのは嬉しいんですけど、遠くないですか!?」
沢田君の言う通り。私は現場より2mは離れた場所にいる。ここなら委員長が向かってきてもギリギリ逃げきれそうな範囲なのだ。そして何より被害を受けない。
『それ以上近付いたら私も咬み殺されるでしょ!』
「そんなーー!」
「星影花莉。邪魔をするなら君から咬み殺す。」
『沢田君がんばれっ!』
「見捨てるの早すぎますよ!!同じ委員会なんだから止めてください!」
『誰だって自分が一番可愛いの。大人になればわかるよ。』
「一つしか歳変わりませんから!!」
『ええい、まどろっこしい!大人しく咬み殺されちゃって!!』
「んなーーーー!?」
そんなぁ!と嘆く沢田君に合掌し、咬み殺されるのを見届けた。ああ、またあんな思い切りトンファーを振り抜いて…。最早無差別と言っていい制裁を受ける彼に同情する。
「星影花莉。行くよ。」
『何言ってるんですか。委員長の後始末をしてからですよ。』
「僕に逆らうの。」
『これは譲れません。すぐに応接室に行くので待っててください。くれぐれも大人しく応接室で待っててくださいよ!!』
委員長は私を横目に応接室へと戻っていった。嵐が去った後のように静かになる廊下。私は素早くある男子生徒に電話をする。
『もしも、っうわ、うるさいうるさい。そんなに大きな声出さないで。2階の廊下にいるから手伝って。』
もしもしと言い終わる前に、また何かあったのか!!と怒鳴り声が私の耳を貫く。電話の彼は沢田君の友達…いや、舎弟の方が似合っているかもしれない。電話を切って1分足らずでこの場に現れる男子生徒、獄寺隼人。
『早いね獄寺君。』
「あったりめぇだろぅが!!10代目!!しっかりしてください!」
気絶している沢田君の体を揺らす獄寺君。誰がどう見ても不良なのに、気弱な沢田君に懐いているのがどうも不思議でならない。10代目と言っているから沢田君はそういう職の跡取り息子だったりするのかもしれない。そのうち委員長は小指を詰められるのでは?と心配になってしまう。
『衝撃で気絶してるだけだから大丈夫だと思うよ。うちの委員長がごめんね。』
「雲雀のヤロー!ぜってぇ許さねぇ!」
『保健室にまたお願いしてもいい?』
「てめぇに頼まれなくても連れて行くに決まってんだろぅが!!」
『じゃあお願いね。』
沢田君は獄寺君に任せて私は急いで応接室に向かう。早く行かなければまた委員長がふらふらと出ていってしまう。仕事が溜まっているのでそれだけは勘弁して欲しかった。
『失礼します。』
「遅かったね。花莉。」
誰のせいだと思っているのだろうか。という言葉は飲み込んだ。咬み殺されるなんて真っ平御免である。応接室のドアを閉め、机に積み上げられた書類を見てため息をこぼした。
『テニス部、サッカー部、陸上部からの書類と、校内の器物損壊についての書類に目を通して頂けますか?』
「通したよ。また部費の増額についてだった。器物損壊についてはもう話はついてる。」
『彼等も懲りないですね。実績もないのに部費は上げられないですよ。』
委員長が目を通した書類をノートに記録してファイリングをする。これが私の主な仕事になる。あとは整理整頓と委員長の後始末。
「所属した頃より随分手慣れたね。」
『これだけ業務が多ければ嫌でも慣れます。』
「もっと鈍臭いのかと思っていたから驚いたよ。」
『私は委員長が意外とおしゃべりなことに驚きましたけどね。』
皮肉たっぷりで返せば、彼は口角を僅かに上げて笑った。彼は決して無表情な方ではない。面白いことや楽しいことあった時、可愛い小動物と関わる時には笑う。そんな表情を見れば、彼は一応同じ人間であることは再確認出来るし、笑った顔も嫌いではなかったりする。
「君が風紀委員会に入って良かったよ。」
『無理矢理風紀委員会に入れたのは委員長でしょう。』
「君は誰のものなの?」
この質問の答えをわかっていて、彼はこう問うのだ。勝ち誇ったようなこの瞳から私は逃れることは出来ないのに。
『私は、委員長様のものですよ。』
そして私はいつも同じ答えを返すのだ。