希望を託して

『どんなことがあっても私を追いかけてこないでくださいね。』

「…、」

『む、無言で睨まないでくださいよ。これが最善の方法なんですから。』

「最善?最悪の間違いだ。君が犠牲になる必要なんてない。」

『いいえ、私が犠牲なんて言わないでください。それに…もうこれ以上、被害者を増やすことは出来ません。』

「君は馬鹿だ。誰もそんなこと望んでない。…………行くな。」

『……恭弥さん…。私はずっと貴方のものです。』

「当たり前でしょ。君が誰だって、どこに行ったって、君の全ては僕のものだ。」

『ふふ、何年経っても変わらないんですねえ。…大好きですよ、恭弥さん。』

さあ、始めよう。
ハッピーエンドを迎える準備を。

***


「健気だね。ボンゴレのために日本を離れるなんて。」

目の前の男の視線がやけに鬱陶しくてたまらない。健気、の言葉の裏側には私を嘲笑う意味が込められている。

「そんなに睨まないでよ花莉ちゃん。まだ怒ってるの?偶然一般人に当たっちゃったんだよ。」

『偶然?貴方ほどの人間が誤って一般人を撃つなんて信じられません。嘘つきは嫌いです。』

「手厳しいなぁ。まぁ、これで君は僕の手の中だし。」

彼の全てを知っていたようなこの瞳が嫌いだ。何もかもが、自分の思い通りになると思ってる。確かにそうかもしれない。この男によって、愛すべき日常は壊れて、大切な人達を失った。

「これでも結構手こずったんだ。もう少し簡単に手に入れることが出来ると思ったんだけどね。案外時間がかかっちゃった。」

『私だけ手に入れたって、貴方が欲しいものは手に入りません。ボンゴレリングはもうないんですから。』

「それは追々考えるよ。きっと君達も考えなしで壊したわけじゃないだろうし。君がここにいることが僕は何より嬉しいんだから。」

こつり、こつりと彼は少しずつこちらに近づいてくる。頭の中で警鐘が鳴り響き、この男に近づいてはいけないと本能的に感じていた。彼は私の頬に指を滑らせ、恍惚とした表情で私を見ている。その視線が熱っぽくて不愉快だ。

『私が星空の娘<フィリア・デッレ・シエロステッラート>だからですか?』

「まさか、君が大好きだからだよ。ずっと前から君が好きだった。やっと、僕のものになった。君が最後だ♪」

『ふ、』

「どうして笑ってるの?」

『いえ、貴方と同じように言う人がいるんですよ。10年も前からずっとね。』

10年前から、私を逃がしてはくれない獣が私のそばにいた。横暴で、自分勝手で、誰よりも並盛を愛する私の最愛、

『私の全ては…10年前からずっと委員長様のものです。』

恭弥さん、どうか次会う時は平和な世界で−−−、

ぼふん、と鳴り響く爆発音と立ち昇る煙、白い彼の最愛の彼女は少し幼くなってこの世界へと降り立った。

『けほっ、』

「このパターンは初めてだなあ。」

煙が晴れて、目を丸くして首を傾げる少女は、真っ直ぐにその男を見た。

『天…使……?』

「うーん、君にとったら、悪魔かな。星影花莉ちゃん♪」

僅かな希望を託して、未来を掴む物語が幕を開けた。