嗤う悪魔

状況を一から整理しよう。学校帰りに私は沢田君の家に寄ろうと思っていた。しかし、沢田君の部屋の窓からミサイルが飛んできて、私はそれに当たってしまったのだ。確か当たる前に10年バズーカと綱吉君は叫んでいた気がする。指輪争奪戦でランボ君が10年後のランボ君と入れ替わった時に使っていたバズーカだったな。ということはここは10年後の世界のはずだ。非現実的なことが自分の身に起こってこれだけ冷静に分析できたのだから慣れって本当に怖い。

「君とは初めましてだね、15歳の花莉ちゃん。僕は白蘭、よろしくね。」

自らを悪魔だと言った男、白蘭さんはニコニコと笑っているがなんだか胡散臭く感じた。よろしく、なんて言えなくて静かに頷くことしか出来なかった。未来の自分とどんな関わりがあるのだろうか。

「へぇ、意外と冷静なんだね。10年前の君はマフィアの世界に巻き込まれたばかりだったはずだけど。」

『な、なんでそんなことまで、』

「知ってるよ、君のことなら何でも。」

ジリジリと私との距離を詰めていく白蘭さん。背筋がゾッとして、思わず後ずさって距離をとった。

『びゃ…白蘭……さんは10年後の私と、どういう関係ですか………?』

「野暮だなあ。こんな密室に2人きりなんて、関係性は1つしかないでしょ?」

嘘だと思いたかった。友達の関係でないことは私でもわかる。私とこの人が友達以上の関係ということなのだろうか。あの人とは対照的な白。どうして私は悲しくなっているんだろうか。

「なーんてね。」

『!?』

「冗談だよ。まだそういう関係じゃないんだ。これから手に入れるところだったんだよ。まさか過去の君と入れ替わっちゃうなんてね。」

けらけらと笑う彼に苛立ちを覚えた。だがそういう関係ではないのなら安心した。私は彼と距離を取り続け、とにかく近づかないようにした。5分経てば戻れる。早く帰りたい。このままこの人と一緒にいてはいけない、そんな気がした。

「15歳の花莉ちゃんはこの時代の花莉ちゃんよりも素直そうだね。僕が怖い?」

『…っ、』

「大丈夫だよ。殺したりはしないから。君はね。」

『ま、まるで…私以外は、殺すって言い方に聞こえます…。』

「そうだよ?もうこの時代のボンゴレ10代目も、アルコバレーノのリボーン君も殺しちゃった♪」

『え…………?』

今、この人は何と言った?ボンゴレ10代目とリボーン君って。私の知っているボンゴレ10代目は、綱吉君だ。彼の言っている人物が綱吉君のことなら…、

『…っ、』

「あーあ、震えてきちゃったの?そうだなぁ、もう5分以上経ったから君にはこの時代のことを教えてあげるよ。時間はたっぷりあるからね。」

『!!…なん、で……、』

「さぁね。壊れちゃったのかな?君の当たった10年バズーカが。」

『そんな、』

ああ、私はどうやら逃げることができなくなってしまったらしい。元の時代にいつ戻ることができるのかわからなくなってしまった私は、白蘭さんの言うことを聞くしかないようだ。彼の口から出る話がどんなに凄惨な真実でも。

「じゃあ、話してあげるね。この時代に起こってる全てを。」


***


「で、君は今ここにいるんだよ。」

頭を鈍器で何度も何度も殴られたような感覚だった。頭がぐらぐらして気持ち悪い。彼の口から出るお伽話のような話に耳を塞ぎたくなった。胸が苦しくなって、ベストの胸元を力強く握る。うまく、息ができない。へたりとその場に座り込み、白蘭さんを見上げた。何故こんな酷い話を、嗤って出来るの。

「気分が悪くなっちゃったかな?」

『っ近づかないでください…っ、』

「ははっ、何を怒ってるの?ボンゴレを壊滅に追い込んだこと?君のお友達をたくさん殺しちゃったこと?」

『…っ!!』

「もう君には関係ないことだよ。だって、君はもう僕のものなんだから。」

彼は私の目の前でしゃがみ、私の体を抱きしめた。逃れようともがくが、ビクともしない。恐怖で打ち震える体が白色に包み込まれる。

「ふふ、これで君はコンプリートだ。」

子どものように喜ぶ彼に、私はただ震えていることしか出来ないのだ。