シュガリィティック・
パレード



♡喘ぎ(夢主のみ)があります。苦手な方はこちらにお進みください。♡が出ません。





「……」

 リヴァイは部屋の真ん中に立ち、腕を組んだ。天井を見上げる。わずかに苦い顔をしてしまうのは、真上の、ほとんどの面積が鏡張りになっているせいだった。もともとなのか劣化したのか、黄ばんだクリーム色の壁と、おんなじ色合わせの天井。そこにはまる四角くて巨大なミラーはやけに新しそうで、どこか古びたこの一室のなかで浮いていた。

「す、すごい……!」

 天井の、鏡越しにひとりの女の背中が見える。彼女、ナマエは少し離れたところでしゃがみ、小さな正方形の箱を開けていた。箱はほぼ小型冷蔵庫のかたちをしているが、中身は飲料水などではなく。だからもちろん、漏れてくるオレンジ色めいたライトなんかもない。

 ナマエがいま眺めているのは、こういった場所──ラブホテルには必ずといっていいほど備えつけられているアダルトグッズの自動販売機だった。新品のバイブだったり、ローターだったり。お笑い草になりそうなぺらぺらのコスプレ衣装だったり、手軽な精力剤ドリンクだったりが、売られている。

「冷蔵庫かと思った……!」

 とりあえず上着だけをハンガーにかけたナマエはさっきから、色気づいた雰囲気も出さず、セックスがはじまる直前の触れ合いもせず、ただあちこちをソワソワ探っていた。ときに冒険家の顔つきで。ときに探偵の顔つきで。そしてたびたびなにかを独りごち、何度もなにかに驚いてみせた。今回は、アダルトグッズの販売機が目に新しいようだった。なにせナマエは、ラブホに来るのが初めてだ。

「こ、こんなものまである」

 リヴァイは一度たりとも答えていない。けれどナマエはずっと楽しそうにしていた。こんなものまである、のこんなものがいったいどんなものだったのかは少し気になるところだが、リヴァイはいったん部屋の中央を陣取るベッドに近寄り、シーツをひと撫でした。硬いマットレスの上、ざらついた布地が手のひらでよれる。

 つい、頬のあたりにひくりと嫌悪がにじんだ。目には見えない菌が付着している気がする。三角巾とマスクをつけ、一回徹底的に掃除しておきたいと思った。部屋が見渡す限りきれいだとはいえ、自分の手で清掃できたならもう、文句はなかった。そういうラブホはねえのかよ、と、口角のはじが歪む。

 ラブホテル。彼女は初めてだけれど、リヴァイのほうもあんまり訪れたことのない施設だ。なにしろ潔癖症であるがゆえに、すっかり落ち着けた試しがない。なんだか身体がむずむずするし、泊まりなんてもってのほかだった。そのため今日も、フリータイムで取ってはいるものの四、五時間したら出ようと考えている。

「リヴァイさん」

 まだ自販機の前でしゃがんでいるナマエが声をあげた。

「なんだ」
「ラブホって、すごいねえ……! なんでもあるよ。暮らせちゃうね!」

 さすがに暮らせはしねえだろ。内心でため息をつきつつ、リヴァイもナマエのとなりにしゃがみこんだ。いまのいままでナマエが観察していたアダルトグッズたちを、まじまじと眺める。そして。

「どれが欲しい」
「へ?」
「せっかく来たんだ、どれでも買えばいい」
「え、う、ううん、いい」
「どうして」
「だ、だって……」
「適当に選んでも楽しめそうだが」

 ナマエの髪を耳にかけた。露出した耳輪はてっぺんが赤い。目の前でボッと染まってしまった、頬と同じに。

「それに」
「あっ、」

 耳たぶをなぞる、と。彼女はかすかに肩を震わせた。

「……俺も、お前に使ってみたい」
「だ、」
「……だ?」
「だめっ。リヴァイさんのえっち!」

 ぷるぷるとかぶりを振ったナマエがぎゃんと吠え、すぐさま立ち上がった。そうしてひとこと、お風呂場を見てくると言い残し、逃げてしまう。

 ぬくもりを捕え損ねた指先で、リヴァイは自販機のドアを閉めた。なにがえっち! だよと思う。ここはラブホテルだ。えっち! もなにもないだろうと。しかもラブホに行こうと言い出したのは、リヴァイではなくナマエのほうだというのに。……まあ、売られているヤラシイ衣装を着せてみたいとか、オモチャで遊んでやりたいだとか。そういうスケベな欲が微塵もなかったと言えば、真っ赤なウソになるのだけど。

「ったく……」

 リヴァイも立ち上がった。またなにかひとりで話し、風呂場でもいちいち感嘆している様子の声が届いてくるので、ゆっくりと彼女を追う。

 なんとなく、すでに楽しい気がした。いままでにホテルを楽しめたことはないが、ナマエの反応がおもしろい。
 それにめまぐるしく動きまわる姿は悪くなかった。初めての場所に連れてこられたという事実が、リヴァイの心模様を明るくさせる。リヴァイはいつだって、彼女のなにもかもの初めてを奪ってやりたかった。多少強引にだとしても。

 とはいえ可愛い恋人を前にすると、乱暴にして泣かせたり、嫌がっているのに強要したりは当然できないのだけれど。でも思う。どんな事柄においても、ナマエの最初で、最後になれたらいいと想っている。常に。だから今日も、ラブホテルへとやってきたのだ。数日前の、ナマエの提案を飲みこんで。




「リヴァイさんリヴァイさんっ」
「あ?」
「これ引いて!」

 数日前。会社から帰宅し、ネクタイをゆるめていると、となりへ立った彼女がアホヅラで手をさしだしてきた。手には数枚のポストイットらしき紙がつままれている。
 リヴァイは怪訝な顔をした。まぬけ女がまたなにかはじめたな……と。

「早くー!」
「……」

 おそるおそる、といったふうに彼女の持つ紙切れを一枚抜き取れば、そこには。

「『ラブホ♡』……?」
「わあ〜! ラブホでーす!」

 ぱちぱちぱちぱち。やけに楽しげな、リズミカルな拍手が響いた。ナマエのものだった。目と鼻の先でほかのポストイットがぴらぴらはためいている。

 歓声をあげられたリヴァイはぽかん……としたあと、眉間を寄せた。わけがわからなかった。ナマエは常々突拍子のないヘンテコな女であるけれど、今回も思惑が読めず困惑する。

「オイオイオイオイ、待て待て」
「なあに?」
「なに、じゃねえ。これはどういう状況だ。コイツはなんだ」

 おもわずつぶやけば、待ってました! と言わんばかりの表情でナマエがにんまり口角をあげた。悪い顔選手権に出られるツラだった。そのまま「来て」とソファへ腰掛けるので、リヴァイもネクタイだけを抜き、真横へ腰をおろす。ワイシャツのボタンをひとつ、ふたつとはずしながら耳を傾ける。

「ラブホテル行こう、リヴァイさん」
「……ああ?」
「あのね。わたしたち、つきあってもう長いでしょ?」
「まあ、そうだな」
「だからマンネリしないように、なにかおもしろいことができないかなっていろいろ考えてみたの」
「ほう……?」
「た、たとえばね! えっちするとき、変わったシチュエーションでできないかな。とか……」

 ナマエが手を広げると、複数枚の即席くじがあらわになった。くじにはリヴァイが引いたラブホ♡ のほかに、コスプレ♡ SM♡ 青姦♡ カップル喫茶♡ の文字が記されている。とんでもない字面が並ぶから、リヴァイの目もとに影がかかった。なぜコイツがこんなものを、と口をひき結ぶ。

 コスプレはまだいい。というより、諸手を挙げて賛成だ。ナマエに着せたいもの、つけてやりたいものはまあ、いろいろある。

 問題は他のみっつだった。たとえばSM。これはどっちがSでMなのかにもよって話が変わってくるし、青姦やカップル喫茶に関しては、まずナマエに知識が備わっているかさえ怪しい。意味を知っていれば、提案なんてしてこないはずだ。

「ちょっと待て」
 
 変わったシチュエーションな、そう思っていたリヴァイだが、突如はっとして顔を上げた。ナマエはきょとんと首をかしげる。

「お前、俺に飽きてんのか」
「ええ?」
「そういうことだろうが。マンネリっつうのは……」

 改めて思い返してみれば。彼女との日常は、ルーティン的だ。ナマエ自体が変ではあるものの、普段の生活はとにかく安定している。広くも狭くもないこのマンションで慎ましく暮らし、特別な派手さもない毎日。記念日や行事の際には国内外問わず旅行へも行くけれど、日ごろ目立つ変化といえばそれくらいだろう。

 リヴァイとナマエは気が合う。金銭面に関する価値観も合致した。彼女が炊くお米の硬さだって初めからしっくりきていたし、ナマエもナマエでリヴァイの味付けの濃さを大好きだと言う。

 とにかく、掃除に関してもなにに関しても──たとえばセックスに関してだって、リヴァイたちは冗談みたいに波長が合った。人と暮らすのにはどうしたってストレスが付き物だ、と思っていたけれど、その考えをとっぷり覆されてしまうほど。

 ナマエもしょっちゅうこぼしている。リヴァイさんといると、ひとりでいるくらい楽なのにひとりでいるよりずーっと楽しい、と。にこにこしながら。

 だというのに。

 リヴァイは目もとの影を深くさせ、背を丸めた。両腕を腿の上に乗せると、フローリングを見下ろす。そこにはふたりぶんの足がある。そろいのスリッパが。そして頭のなかにはマンネリ、の四文字があった。

 リヴァイのなかでは安定していると感じていたこの暮らしも、彼女にとっては退屈になりはじめていたのかもしれない。それこそ大きな変化ではないか。少しも気づかずにいた自分を、情けなく思う。

「ち、ちがうよっ」

 ソファがぎしりとひずんだ。横にいるナマエが、ぶんぶん手を振っているのが尻目に映る。

「リヴァイさんに飽きるなんてこと、あるわけない」

 わずかに首を回した。リヴァイはうつむきがちのままナマエを見やる。眉間のしわはうすまらないし、目つきだって和らがない。でもナマエは気にしていないようだった。もう知っているからだ。リヴァイが見た目ほど怖い男ではない、と。充分に。

「むしろ、その逆なの」
「逆だと?」

 こくん。うなずいたナマエは、とつとつと話しだす。

「リヴァイさんがわたしに飽きちゃうんじゃないかって……わたしは、その。夜の、そういう……テ、テクニックとかもないし。普段から毎日、わたしの話ばっかり聞かせてるし。料理はするけど、豪勢なものを作るってわけでもない。見た目だって、美人とかかわいいとかじゃないし、だから」

 彼女がまつげを伏せた。ひざの上にちょこんと両手を置き、こぶしを握る。たくさんのお粗末なくじが、ひと束になるのが、リヴァイの目にも見えた。

 そういえば──。
 先日、ふたりで雑学特集を観ていた夜の記憶が、脳裏をかすめる。テレビに映った、愛は三年しかもたないというけばけばしい配色のテロップも。

『さ、三年……!』

 雑学を頭に入れたナマエは、たしかそんなふうに、真剣に受け答えしていた。抱えたクッションをぎゅうぎゅう抱きしめ、リヴァイを見るなり『わたしとリヴァイさんの愛も、三年で消えちゃうのかな』なんていまにも泣き出しそうな顔を揺らせるから、リヴァイは小さく呆れる心地になったものだ。んなわけねえだろ、と。

 なんなら、ちょっとくらい飽きたほうが健全だとさえナマエに対しては思う。だれかを愛するということは痛みをもともなうものなのだと、リヴァイはナマエと出逢って知った。もう少し愛情のさじ加減を調整できなたなら、きっと楽だった。

 あのとき。不安げにするナマエにでも自分は、どう返してやったんだったか。抱きしめて、ずっと愛している、俺にはお前だけだ、と囁くようなガラでもないし。──アホか、とかなんとか、テキトーに答えてしまったかもしれない。あるいは雑に、ともいえる言葉を返してしまったかもしれなかった。リヴァイのなかでは三年で気持ちが失くなるなど絶対的に有り得ない事象であり、迷信でしかなかったせいで。

 そのあとに続いた、愛を長続きさせる方法、というくだらなささえおぼえる内容で、司会者は言っていた。マンネリ化をさせないことが大事だとか、彼や彼女を驚かせるサプライズを決行しようだとか。
 テレビを真面目な面持ちで、一心に観ていたナマエの横顔を、ふいに思い出す。

「だからってお前……」

 リヴァイはナマエの手からくじを抜き取った。いつもの彼女であれば絶対口にしないようなワードが羅列するそれらを見下ろす。

「なあ、ナマエ」
「なに?」
「お前、カップル喫茶がどういうモンか知ってるか」
「えっと……ふたりで行く喫茶店? いろんなこと調べたとき、デートにおすすめって書いてあったよ♡」
「青姦ってのはなんだ」

 彼女が口を噤んだ。といっても、羞恥からではないことが頬の白さから窺えた。

「よく知りもしねえでこんなモン作りやがったな」
「む」

 ナマエのほっぺたをきゅっとわし掴む。すぼまった唇はなにも応えないけれど、ナマエはウンウンとうなずいてみせた。リヴァイの口からささやかなため息がこぼれる。こうなってくると、自身の引いたのがラブホテルでよかったと思えてならない。幸運に感謝して、行ってやるべきだろうかと。

 ただ、ひとつだけ。ラブホの衛生面がおそろしく気掛かりだった。シティホテルであっても場所によっては肌がぞわぞわするほどなのに。男と女の情交ののち、清掃だって果たしてどこまでシッカリされるのか。考えただけで身震いしそうになる。

 でも。

「……」
「んー?」

 目の前でにこにこ、ぽやぽやしている女をちらりと見れば、しゃあねえか……という気持ちにもなってしまう。

「……わかった。ラブホ、な」

 むに、とつぶしていた頬から手を離す。ナマエは、リヴァイの返答を聞くなり嬉しそうに笑った。冬にとても似合わない、ぬるくまどろむひだまりみたいに。

 結局、と思う。
 結局のところ、リヴァイはナマエにとにかく弱いのだった。彼女が喜ぶというのなら、まあなんだっていいか、と折れるのだってちっとも苦ではない。

「楽しみだねぇ……!」

 旅行前のように浮かれはじめる恋人にも、

「そうだな」

 と。
 おだやかなトーンで、答えてしまうくらいには。




「リヴァイさん!」
「なんだ」

 先に浴室へ向かったナマエが、追いついたリヴァイをふり仰ぐ。風呂場の灯りは落とされていた。代わりにショッキングピンクやライトブルー、オーロラグリーンのネオンがぎらぎら輝き、辺りをまばゆく照らしている。バスタブはベッドほど大きくはないけれど、自宅のものと比較すればもちろん広い。ジャグジーもついているので、準備すれば泡風呂に入れるのだろう。そんななか、彼女は暗がりの洗い場でウキウキはしゃぎながらも。

「これってなんだろう?」

 立てかけられたエアーマットをさすっていた。マットはシルバーで、安っちい塗色スプレーを吹きつけたような質感に見えた。醸し出ているあからさまなチープさは、場所のせいもきっとある。どこもかしこも、見渡す限り胡散臭い雰囲気だし。やっぱり慣れねえな、と声にせず吐きだす。そんなリヴァイをよそに、ナマエはぷくぷくのエアーマットをつんつんつついた。

「大きさからしても、お風呂のふたかなあ?」
「こ、」

 こんな空気の入ったふたがあるか。即座につっこみたくなってしまったが、ぐっと言葉を飲みこむ。ナマエは至って真剣だ。だったらもう、存分に楽しんでもらわなければ。新しい発見があったなら珍しがればいいし、気づきを得たならおもしろがればいい。

「……お前、コイツの使い道を知らねえのか」

 ふと、リヴァイの思考回路が働いた。
 たずねれば、ナマエはうなずく。

「なら」

 そうして座りこむ彼女の横に立つと。

「教えてやろうな……俺が」

 え、とつぶやいたナマエの腕をひいた。自然と立ちあがるようになるナマエを壁に押しつけて、くちづける。おやすみのキスみたいに軽い一回。うすく目をひらいたまま続ければ、とじられゆくナマエの瞳のなかに、たちまち浮かぶ情欲を垣間見た。

 リヴァイの手がナマエの服にかかる。つう、と身体の線をなぞりながらトップスを乱していく。けれどここはベッドじゃないから、完全にはぎ取ることはしない。

 ある程度着乱れるまでくちづけを与え、ナマエを解放したリヴァイは浴室から脱衣所へ続くガラス張りのドアを見やった。奥にはドレッサーがある。大理石の鏡台だ。丸イスや、アメニティや、ドライヤーも。
 その脱衣所を目線で促し、リヴァイは静かに言った。

「そこで、自分で脱げ」



 *



 ナマエはどきどきしていた。

 だってトップスに手をかける際も、下を脱ぐときも、リヴァイがじいっとこちらを眺めている。彼とはつきあってもう長い。裸を見せたことだって何度もあるし、自分で服を脱いだことだってもちろんあった。

 でも、こんなふうに。

「……どうした」

 ちら、と顔を上げれば、ふたりでいる脱衣所のドレッサーの前、イスに腰掛けるリヴァイと目が合う。ブルーグレイのそれはナマエの全身を這うでもなく、ただ、表情を見るようにしていた。まだ身体を、服を脱ぐ仕草を見詰められたほうがましだったように思う。

「手が止まってるぞ」

 リヴァイは背を丸め、自身の腿で頬杖をついていた。彼のおもざしに下心なんて一ミリも見受けられない。まるで仕事中みたいだ。会議にでも出ているみたい。その、冷静沈着な気配であることが、ナマエをよりいっそう恥ずかしくさせる。自分だけがヘンなキブンになっている、そんな心地に陥って。

 こくり、小さく唾を飲む。ナマエはううんとかぶりを振って、肚をくくった。そもそもが、今回の発端は自分にある。ノリ気なのはひとりだけで、リヴァイがそういう気持ちになっていなくても仕方ない。ならばナマエが頑張るだけ。

 まずは上を脱ぎ去り、それから下も。インナーも床へ落とすと、ブラとショーツのみになる。部屋にも浴室にも暖房をつけたとはいえ、素肌をさらせばやっぱりすうすうした。

 後ろ手をまわし、ホックをはずす。胸を守るものがなくなり、ピンク色の先端があらわになった。ナマエはうつむきがちに肩ひもを抜き取る。音もなく放れば、残るはショーツ一枚。

 なんだか、時間の流れがゆるやかに感じられた。ひどい緊張感をおぼえているせいだろうか。それとも、非日常的な空間にいるから? ナマエは片腕で胸を隠すようにして、逆の、空いた手を下着にひっかけたのだが。

「……隠すな」

 低い声にいさめられてしまう。目を上げれば今度もばっちり視線が絡んだ。見ないで、と、言いたくなる。ただ見られているだけなのに、身体じゅうをさわられてる心地がした。まともな息の仕方を忘れるくらい、緊張している。

「リ、リヴァイさんも、脱いで……」

 いまは猶予が欲しかった。だからナマエも強気に出てみることにした。こっちだけが裸なんて不公平、と。
 正面のイスが床を擦る。リヴァイが立ち上がったのだった。

 リヴァイは腕をクロスさせ、黒いハイネックを最初にとっぱらった。恥ずかしげもなく、緊張感すらもにじませず。潔く。これではナマエのほうが窮してしまう。

 続いてインナーも脱げていった。筋肉質な二の腕やきれいに割れた腹筋、分厚い胸板が露出する。それらはやわいオレンジ色の光に照らされて、陰影を作っている。

 ナマエもリヴァイの顔を見詰めた。引かれたあご、かたちのいい唇。垂れた前髪で少し見づらい目もと、伏せられたまつげ。つんと尖った鼻先が動く。視線のなかで、彼はベルトのバックルをはずした。カチャカチャと鳴る金属音にも慣れていたはずなのに。ナマエはひどくどきどきした。周囲に、そこはかとない色香が漂っている。リヴァイの緩慢な動作が余計、淫猥さを目立たせた。

 くつしたも、ボトムスもするりと脱ぎ去られ、リヴァイもボクサーパンツだけになるとそこは膨れていた。モノのかたちがはっきりとわかるほど。リヴァイさんも、興奮してる。ナマエが気づくと同時、ハ、とうすい笑い声が聞こえた。

「そんなにコレが気になるか?」

 言われてようやく、自分が一点を凝視していたと知る。
 こちらの顔ばかり覗いてきた彼と違い、リヴァイの身体つきや、すでに硬く勃っている性器に目を奪われていたのがばれてしまえば、泣きたいくらいの羞恥に駆られた。

「ナマエ。来い」

 武骨な手をさしのべられる。脈拍を速めた心臓のあたりに手を当て、ナマエは近寄った。次の瞬間には腕を掴まれて至近距離にまで。腰を支えられ、互いの足が絡むとリヴァイの男根が押し当てられるようだった。尻をついとなぞられる。ナマエの皮膚がぴくりと跳ねれば、彼は目を細めた。

「っあ」

 鏡を後ろにしていたリヴァイと、位置を入れ替わった。そうしてくるりと反転させられれば、鏡に映る自身と向き合う姿勢になる。おもわず顔をそむける、と。

「見ろ」
「んん、」

 耳もとで囁かれ、背後からあごをまっすぐに直される。やけにとろけたまななしのナマエが鏡写しになっていて、自分の頬や肩までもが赤らんでいるのをまざまざと見せつけられた。

「やらしいツラしやがって」
「あ……」
「服脱ぐだけでこうなるのか、お前は」
「ッ、ゃ」

 ぴちゃ、と水音が響く。熱くぬめった舌が耳孔にさしこまれる。ぞわぞわと、快感の鳥肌が広がった。

「……それともなにか」
「や、リヴァイさ、」
「人が脱いでくとこ見て、んなツラしちまうのか?」
「あ! あ♡」

 カリ♡ と耳たぶを噛まれ、一緒に胸を揉みしだかれれば思考が溶けた。髪の毛を片側でひとまとめにされる。首すじをくすぐる毛先にすら皮膚が反応してしまい、ナマエは鏡台に手をついた。

「は……ナマエ、」

 湿った口調で名を呼ばれる。リヴァイの声がナマエは好きで、だからおなかの奥がきゅんきゅんして、淡い吐息を漏らした。

「んん♡」

 リヴァイの舌が首すじを、耳たぶまでを辿る。尻には勃起したモノをこすりつけられ、下着越しでもわかるあからさまな熱度に腰が震えた。

「あッ、あぁ♡」

 胸のまんなかを、きゅ♡ とつままれる。

「先っぽビンッビンじゃねえか」
「やあ♡ あ、♡ そんな、カリカリ♡♡ しちゃだめッ……♡」
「ウソつけ、だめじゃねえだろ。だらしねえ声出てるぞ」

 わからねえか? じゃあもっと聞かせてやろうな。いじわるな言葉を与えられ、快楽から逃れたくてナマエは仰け反るようにした。いじめてくるリヴァイの指先を少しでも遠ざけたかった。でも、リヴァイはナマエの後ろにいる。ナマエが身体を引けば引くほど、彼に背を押しつけるようになってしまう。甘え、ねだっているみたいに。そうしてさらにきつく抱きすくめられると、逃げ場はなくなった。
 ぴん♡ と勃った乳首を、しごかれる。

「あぁぁ♡ リヴァイ、さ……♡♡」
「ん?」
「これぇッ♡」
「ああ、気持ちいいな。お前……こうやって遊ばれるの大好きだもんな」
「ん、んんぅ♡ すき、すきッ、」
「オイ」
「ッあ゙?!♡♡」

 ばちん、と尻を叩かれて、ナマエは目をちかちかさせた。内腿が情けなく震え、脱力しかかる。

「……しっかり立ってろ、じゃねえと」
「やあ゙♡」

 もう一回。今度は逆側の尻を。じんじんとする双丘にも、熱がわだかまる。立ってろと言われたって、うまく力が入らない。
 叩かれるのがこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。

「リヴァ、イさ……も、たたくの、やぁ♡♡」
「したがったのはお前だろうが」
「ぁ、ぇ?♡」
「SM、ってくじに書いたのはだれだった? 俺か? 違ぇよな」
「ん゙ーッ♡♡」

 ばちん。容赦のない一発は、お遊びというより本物のサディスティックさをはらみ、ナマエに降りかかる。どうしようもなく痛い、痛いのに、その苛烈な感覚に昂って仕方ない。

「ほら……ナマエ。俺を、楽しませてくれるんだろう」

 尻を突き出し、鏡台に上体を伏せるまでになれば背中にも唇を当てられた。うなじに噛みつかれ、ガクガクと両脚が震える。じわ♡♡ と割れ目がにじむのがわかる。視界も溺れているように濡れていて、はーッ♡ はーッ♡ と自身の口から出ていく息がまわりの湿度をひどく高めた。

「あッ♡♡」

 リヴァイも上体を折っているのだろう、上から覆いかぶさられる状態になり、背中じゅうに体温を感じる。そのまま、両の乳首をひねられていく。こすこす♡ カリカリ♡ いろんなさわり方をされ、ナマエのとじられなくなった唇から唾液が落ちた。直後、口もとにリヴァイの指が触れる。舐めろ、とご主人さまの口調で命じられ、ナマエはリヴァイの骨ばったそれを咥えた。彼はぬるぬると舌を撫でつけると、その指で、再び。

「あぁぁ♡♡♡」

 ちゅこちゅこちゅこちゅこ♡♡ と、ぬめりけを帯びるままに勃起する乳首をこすった。胸から全身に気持ちよさが伝播していく。波紋が広がるみたいに、毒が廻るみたいに。

「や、こぇ♡ これだめ、だめッ♡」
「あ?」
「おっぱい、♡ そんなにッ♡ しちゃだめだからッ♡♡」
「そうか」
「やあぁッ♡♡」

 ぎゅうう♡ と強く、だけど適切ともいえる、ある種最悪な触れ方をされてナマエは全身をこわばらせた。ぱ、とリヴァイの手が離れる。

「お前、もうココだけでイけんじゃねえのか」
「ぁ、はぁ……♡」
「まあ、だとしても」
「ん、ッあ!!♡」
「カンタンにイかせてやる気はないが」
「あぁあ♡」

 へその下から、ショーツのなかに。つめたい指が、入ってくる。リヴァイはナマエの媚肉をふにふに、くちくちと弄び、くぱぁ♡ とひらいたり割れ目の左右を上下になぞったりした。躾を施された犬みたく鏡台に伏せをしたままで、ナマエはひざがしらをくっつける。降り注ぐ愛撫のせいで、立っているのが精一杯だった。ショーツが足を抜けていく。リヴァイも後ろで、下着を脱ぎ払っている気配があった。

 ナマエは早くも虚ろげなまなざしでリノリウムの床を見詰めた。そして、甘くとろけた声でつぶやく。

「リヴァイさん、向き合って、したい……」
「……」

 ぴたり、リヴァイが静止した。リヴァイさん? ナマエは再度彼の名前を呼んだ。が、返事はなく。代わりに鼓膜を撫でたのは、ひとつの舌打ち。

「あっ」

 有無を言わさぬ力強さで、リヴァイはナマエを横抱きにした。すぐさま浴室へと連れていかれ、さっき気になったふわふわの、風呂蓋のようなものの上に寝かされた。これをベッド代わりにしていいんだろうか。自分たちの重みでやぶけたりしないんだろうか。一抹の不安が頭をよぎったものの、ほんの一瞬で消えていく。リヴァイにくちづけられてしまえばもう、頭蓋の内はたやすく桃色に染まってしまうから。

「ん、ふ……」

 ナマエたちは風呂場にいる。くちゅ♡ くちゅ♡ と舌を舐め合う音が、普通の室内にいるときよりも念入りに響いた。耳を犯されながら、でも必死に、応じるようにナマエも舌を絡める。口蓋までを舐められ、歯列を辿られ。舌先を吸われ、噛まれると「ん゙♡」と汚い嬌声がこぼれた。真上にいる彼の、押し当たるソレがとたんに硬さを増す。

 ナマエの頭を撫でて、髪の毛を梳いたリヴァイの手がこめかみをさわった。攻められて熱くなった耳輪をひっかき、耳の穴を虐めて、耳たぶをつまんでくにくにする。こそばゆさに身をよじれば、それを叱るような激しいキスがもたらされる。じっとしてろ、と言うみたいなキスに、ナマエは甘えた。

「んんん……♡」

 リヴァイの、口淫ともいえるくちづけは終わらない。そのまんまで胸をいじられ、ナマエは身悶える。けれど脱衣場でしていたふうに執拗にはさわられない。リヴァイの手のひらは触れるか触れないかの軽々しさで、汗ばむ素肌を降りていった。彼はナマエの脇腹を、みぞおちを、へその穴を可愛がる。前腿をなぞり、足のつけ根をくすぐり、そうして。

「んんぅ♡ ん゙〜〜ッ♡♡♡」

 割れ目をつう♡ と上下した。びくん、と腰が跳ね、背が浮くのを止められない。それでもリヴァイは動きを緩めず、ゆっくり、ゆ、っくり、と、ナマエの弱い箇所をこすった。ぐち……♡ ぐち……♡ と濡れた音がうるさかった。

「……まんこぐしょぐしょだな」
「ん、はぁ♡ ああぁ……♡ ゆっくりぃ、きもち……♡♡」
「は……、ああ、イイな、こうされんの」
「ん、ん♡」

 こくこくとうなずけば、「可愛いな、お前は」とリヴァイが囁く。どきどきして、愛液が余計にあふれた。いつかこれにも慣れ、飽きるのだろうかと疑問を感じる。彼に褒められると、きまって心底喜んでしまうから。

「あ゙?!♡♡」

 つめたい、でも幾分あたたまった指で粘液をすくわれ、割れ目に撫でつけられる。理解が追いつかないくらいの快感に呑みこまれるみたいだった。びりびりと全身に電流が駆け抜ける、ずっとじんじんしてしょうがなかった突起に、リヴァイの指先が、ぶつかったせいで。

「つまめんじゃねえか、お前のクリ」
「あぁぁ♡♡」
「ほら」
「や゙ぁ!♡ だめ、しこしこ♡♡ しちゃだめぇ……♡」
「はっ」

 さもおかしくてたまらない、というような笑い声だった。
充血し、真っ赤になって膨れたクリトリスをごしごしこすられて、ぴんと尖った一番先っぽの部分をカリカリされて。ナマエはヘコ♡ ヘコ♡ と無様に腰を揺らす。

「……ナマエ。俺の指でオナニーすんの、気持ちいいか?」
「ッ、してな♡ そんなこと、してなぃ……♡♡」
「してるだろうが。テメェでこすりつけてきやがって」

 とろとろの愛液がまた、塗りたくられる。男の肉棒みたいになったナマエのクリトリスを、リヴァイは指の腹でぐりぐり♡♡ と撫でつぶした。擦り上げられれば甲高い声が漏れるのをこらえきれない。もう、リヴァイの手でひとりでしていると言われてもよかった。なんでも、よかった。思考が正常に回らない。きもちい♡ きもちい♡♡ ナマエはそればっかりを思う。

 勃起したクリトリスがぐちゃぐちゃに撫で回されている。彼の指の下で、ぐりゅ♡ ぐりゅ♡ とこねられる。限界が近い。ナマエはのどを晒し、仰け反ったまま自分でも腰を振った。リヴァイの、鍛え上げられた体躯。引き締まった身体に抱きついて、情けないガニ股のまま、彼の手で自慰をするように。

「あ♡ あ♡ ああぁ♡♡」
「……、」
「リヴァイしゃ、♡ これぇ♡♡ クリ、トリス、シコシコ♡ されるの、きもちぃ……♡♡」
「そのままもっと善くなろうな」
「んんんッ?!♡ あ♡ あ♡ 激し、ッ♡♡」
「俺でイッてみろ、ナマエ」
「あ!! あ゙♡ あぁあ……ッ!!♡♡」

 ちゅこちゅこちゅこ♡ ナマエのクリトリスを根元から先端までしごいていた、彼の指が。包皮をむかれて剥き出しになったそこを、カリッ♡ とひっかいた。胸をいじられていたときの、何倍もの快楽が襲い来る。ずぶずぶとどこまでも深く、沈んでいくようだった。恐ろしさにも似た感情がわき起こり、リヴァイにもっと、もっと強く抱きつく。じゃないと離れ離れになってしまいそうで、怖い。

「リヴァイさん、」

 泣き虫みたいな声で呼びかける。うなじの下に腕をさしこまれ、リヴァイがナマエ以上のきつさで抱き寄せて応えてくれるから、安心感につつまれた。この腕のなかが大好きだ。なによりもナマエを大切にしてくれる、ひとの腕。

「すき……」
「ああ」
「すき、リヴァイさん」

 ちゅ、と淡いリップ音が耳に優しい。じゃれつくくちづけをし合って、愛を感じる。

 そのままリヴァイに腰を抱かれ、起き上がった。くた、としている身体を支えてもらい、またキスをする。こんなふうに、ただいちゃいちゃしているだけでも幸せになり、満たされるから不思議だった。

 わずかに距離をとったリヴァイが、浴室のはじっこに置かれていたボトルを取る。中身はボディソープらしかった。ナマエがぼんやり眺めていれば、彼は逆さまにしたボトルから泡立つソープを出す。

「ひゃ、」

 リヴァイの泡々の手のひらが、ナマエの下腹部をさわった。ちょっとだけ冷えていてびっくりしてしまうけれど、デコルテにも背中にも塗りたくられればすぐにあたたまっていくボディソープが、ぬるついて心地好い。

「ナマエ」
「うん……?」
「コイツの……エアーマットの使い方を、教えてやる」

 おはよう、とか紅茶でも淹れるか、とか。そんなことを口にするのとさほど変わらない口調でリヴァイは言い、どんどんナマエの身体に香る泡たちを塗りつけた。ボディソープは当然マットにも垂れてしまうので、尻がぬるぬるとビニールの上をすべりはじめる。気をつけろ、と気にしてくれるリヴァイにうなずけば、ボトルを手渡された。

「俺にも、やれるか」

 こく、と首を縦に振る。今度はナマエがリヴァイに跨り、いま彼がしてくれたように、均等のとれた肉体へぬるぬるを付着させていく。真剣になって臨んでいれば、やがてフとかすかな笑みをこぼされてはっとした。

「口が尖ってる」

 んなマジメなツラしてやることか、と指摘されて心のわきに恥ずかしさをおぼえる。だけどいまいちエアーベッドの使用方法がわからないナマエはやっぱりそのあとも、ム、とした顔つきで集中してしまうのだった。

 そのうちリヴァイを押し倒し、ふたりしてすっかり泡だらけになったころ。今度はナマエが刈り上げられたうなじに腕をさしこみ、抱きついた。抱きしめ返されると普段の入浴時には感じない、ぬめぬめとした感覚を味わう。リヴァイをつるりと掴み損ねてしまいそうなほどで、しっかり抱き合えないのがなんだか不服だ。けれど重なる肌は、気持ちがいい。

「あ……」

 くっついているせいで、下半身に彼のモノがぴったり当たった。ガチガチに勃起したそれは、熱のかたまりみたいな温度を持ってナマエに迫る。ボディソープよりももっと、ずっと粘性のあるぬめり。

「リヴァイさんも、きもちい……?」
「ああ、たまんねえ」

 荒々しい声音。高まるくちぶりで囁かれ、鼓膜がとろけた。同時にツと背すじをなぞられれば呼吸が乱れる。息が整わないのは、リヴァイも感じているとわかればなおのことだ。さっきまであんなに平静を保っていた彼が。思うと、ナマエの中がひく♡ と収縮をくり返した。

「ナマエ……このまま、起き上がれるか」
「えっと。こう?」
「そうだ」

 騎乗位になり、リヴァイの腹に手のひらを置くと腰が支えられた。マットは意外にも安定する。中身が空気だということを、疑いたくなるくらいに。

「ッあ!♡」

 ずりゅ♡ ずりゅ♡ 掴まれた腰を前後に揺さぶられ、お互いの熱がこすれはじめた。うつむけば赤黒くて卑猥なかたちをしたリヴァイのが、ナマエの下で血管をビキビキと浮き立たせている。太いそれを見詰める。皮は剥けきっている、だから亀頭もカリ首もよく見えて、あまりのいやらしさにナマエの視界が潤んだ。騎乗位でするのは初めてじゃないけれど、こんなふうにじっと眺めたことはない。

「ッは、」

 リヴァイも淡い声を漏らす。見れば目をすがめていた。歪む表情は媚薬にも似ていて、ナマエの心を酩酊させる。もっと、もっともっと気持ちよくなってほしい。わたしでいっぱい感じてほしい。イッてほしい。そんな、どろどろに溶けた欲求があふれてやまない。

「んぅ……♡」

 されるがままになっていたナマエは、気をとり直し。滑ってしまわないよう、注意深く動きだした。

「ぁ、んん、♡ んッ♡」

 ずりゅりゅりゅ♡♡ と擦り上げていく。リヴァイの尿道口の、えぐれた部分にクリトリスがぴた……♡ とはまればつい腰を持ち上げて逃れたくもなるけれど。一番敏感なところをこすってみれば、リヴァイもうすく唇を開けたまま吐息をこぼすから、ナマエは耐えた。いつだって余裕そうで、涼しい顔をしていて、汗さえもめったにかかず冷静でいる彼の、乱れたところをたくさん見たい。快感に溺れているさまを、見てみたかった。

「ん、ッく……、ナマエ、待て、」

 ヒク♡ ヒク♡ と尿道口が震えている。モノは赤みもずいぶん増し、パンパンに膨らんでいた。その割れ目から、透明な先走りが絶えずにじむ。ナマエは待たない。粘液を絡め取るようにしてリヴァイの亀頭も、裏スジも、根元までもこする。自分の声も我慢できないままではありつつ、絶頂を迎えそうでつらいなか、どうにか腰を揺らした。

「オ、イ……、ッ待てと、言ってる、」
「や♡ また、なぃッ……♡♡」
「んッ……出ちまう、だろうが」
「んん、だして、♡ 出してッ♡♡ きもちいの、出して……ッ♡」
「ッ、クソ、」
「あ゙ッ!!♡♡♡」

 がっちりと掴み直された腰。たくましい両腕で激しく前、後ろ、とすべらされ、たったいま自分で動いていたときとは比べものにならない悦楽が走った。硬く勃起したリヴァイのに、ナマエの弱い突起が押し当たる。さらに自身の重みを乗せているせいで隙間などなく。ぬるぬるの太い男根につぶされて、何度目かの、絶頂がくる。

「んんんん……ッ♡♡♡」

 ナマエの力が抜けた。リヴァイの上に倒れこむ。
 そして彼も。

「は、ぁ、イく、……出る、」

 びゅ♡ びゅるる……ッ♡♡ と射精した。ナマエの下で。おなかのあたりに、熱い白濁が飛んだのがわかる。熱い……♡、ナマエはつぶやいた。リヴァイが気持ち良くなった証拠だ──そう、思ったとたん。

「〜〜〜ッ、ッ♡ ……ッ、♡♡」

 またしても脊髄がびりびりしびれた。ひどい快楽だった。暴力的で、抗えない。びくびくと身体を震わせていたからだろうか、リヴァイにも見抜かれてしまい。

「イッてるな……」

 小さなボリュームで彼は言う。

「……ああ、勃っちまったじゃねえか」

 と。

「へ、……リヴァイさ、っあ!」

 ナマエがなにかを返す間もなく、ぐるんと位置が入れ替わる。覆いかぶさられて、真上にぎらつく青灰色が浮かぶ。獰猛なまなざしが。でもどこかとろりとした目つきでもあった。色っぽいというのは、男の人にも言える言葉みたいだ。ただし、あてがわれる肉棒は猛々しい。いま出したはずなのに、重たくて、パンパンだった。

「リヴァイしゃ……ちょっと、まって……」
「あ?」
「まだ、できな、」
「そうか。じゃあ」
「ね、きいてる、? ほんとに、いま」
「あとちょっと頑張ろう、か……ッ」
「ん゙♡ あ゙ぁぁ♡♡」

 視界が明滅する。ものすごい質量に中を割りひらかれ、膣口も、肉ヒダも、子宮の入口までもとん♡ とん♡ とん♡ と突き上げられて。ナマエはかぶりを振ることもできないまま。リヴァイに、囚われたまま。

「奥、ほら……ここ、チンポでさわって、やろうな、」
「あ♡ あ♡ あッ、♡♡」
「……は、まんこ痙攣してるぞ、ナマエ」
「しらなッ♡ しらに゙ゃぃ♡♡」
「オイ、俺を見てろ」
「や、あぁ゙♡♡」
「あー……たまんねえ、」
「あッ♡ あぁ♡ これぇ♡ きもちいッ♡」
「こうやって」
「んんんぅ゙♡♡♡」
「い……っちばん奥突かれるの、好きだもんな、ッお前は」
「しゅ、き♡♡ しゅき、♡ きもち、おく、しゅごぃぃ、ッ♡♡♡」

 脳内をピンクに染め抜くことしか、できないままで。





「リヴァイさん」
「どうした?」
「お風呂場でするの、初めてだね」

 あれから。

 何度かの行為を重ね、つきあいたてのころみたく盛り上がったあと、ふたりで湯舟に浸かっていた。ギンギラのネオンを照らし、泡風呂を作って。シャンプーやトリートメント、ボディタオルの傍にはバスボムも二種類用意されていたため、ひとつを入れてみれば泡まみれのお湯は外国のお菓子さながら毒々しいパープルに染まった。これに肌つけて大丈夫なのか、と訝るリヴァイをなかばむりやり沈め、ナマエも一緒に飛びこんで数分。全身ぽかぽかしてくるくらいになっても身体に異変はなく、リヴァイもやっと肩の力を抜いてみせたのだった。

「そういや初だな」
「うん」

 片腕を、バスタブのへりにひっかける彼を眺める。
 この人とは──リヴァイとは、いろんな面で気が合うとナマエは思っている。例に挙げるとすれば、浴室は身体を洗う場所といった認識があるところもおそらく共通していて、ふたりで入浴することはあってもセックスをすることはなかった。一度も。

「わたし」

 いつものお風呂タイムを思い出して口をひらく。

「リヴァイさんと入るお風呂、大好き」
「そんなよかったか、ここですんの」
「ちが……っ、違わないけど。そうじゃなくて」

 髪を洗ってくれる手つきはとにかく丁寧で優しいし。向かい合わせに浴槽を埋めておしゃべりする時間は楽しい。背中のほうから抱きしめられればぬくもりに胸がいっぱいになるし、たとえば冬場は、冷えないようにとときおり肩からお湯をかけるリヴァイの気遣いが嬉しかった。

 そして逆に、リヴァイを洗ってあげるのも良い。すこし硬めの彼の髪が好きだし、洗い終わったあと、後ろへ流してめずらしくひたいを出しているさまにも惹かれる。何度見たって飽き足らず、ときめいてしまう。髪や身体を洗う最中、気持ちいい? と聞けばああ、とやわらかく返してくれる低音な声が浴室にこだまする。一日の疲れや嫌だったことを石鹸で落としていく。ふたりで。やがておそろいの香りを身にまとい、笑い合えばすべてが最良の夜として完結した。

 そんなことを、心で思うよりもずっと拙い言葉にして伝えれば、リヴァイは目もとを和らげた。表情ではっきり笑うのが苦手な彼の、愛しい笑顔。

「でも、リヴァイさんの言うとおりここでしたのもすっごくよかった」
「悪くなかったな」
「うん」
「俺も年甲斐もなくサカっちまった」
「あはは。かわいい」
「うるせえ、なにがカワイ〜イだよ」
「そんなふにゃふにゃな言い方してないっ」
「してたろ」
「してない」

 リヴァイが口もとをへの字にする。はいはい、とでも言いたげに。むかつくけれど、あっけなく許せてしまうのはふたりでのお風呂が楽しいからでもあり、心が満たされているからでもあり。

「あーあ、まだ帰りたくないなあ。あと二泊はしたい」
「は、……相当お気に召したらしい」
「うん! だってきらきらしてて、なんでもあって。気持ちよくて、楽しくて、夢を見てるみたいな空間だもん。それか」
「それか?」
「パレードを見てるみたい」

 リヴァイは少々思案顔になり、瞳を湯面へすべらせた。バスボムの溶けだす、毒みたいにきれいな色のお湯。
 彼はナマエの言うことにきっとぴんときていないのだろうと察せられた。パレード? と疑問を抱いているのだろうと。つきあいも長いから、わかる。

 だけど構わなかった。

 だってリヴァイは、自分が理解できないことでもけっして否定しないでいてくれる。ナマエは他人に、ばかだとか変わってると嫌なふうに笑われた過去があるし、もっと普通になれたらと、普通ってどんな感じだろうと悩んだ時期もある。そんななか、リヴァイは。リヴァイだけは、ナマエのあるがままを受けとめて、まるごと大事にしてくれる人だった。彼の傍ではいつだって、息がしやすい。

「なら、そうだな」

 リヴァイが顔を上げる。ナマエも、ブルーグレイを見詰めた。ぴかぴかのネオンにも負けない、美しい瞳の色だ。世界じゅうにあるあまたの色彩のうち、ナマエにとって最も特別といえる色。

「また来るか」

 語尾にハテナはついていない。リヴァイはほとんど決定をくだすように言ってのけた。ざぶ、とお湯をかきわけて現れた手のひらに、髪を撫でつけられる。優しく。手はそのまま、ナマエの頬にまで下がった。すりすりされるとうっとりして、目をつぶる。頬擦りすれば安心した。

「うん……また来る」

 リヴァイさんと、一緒に来る。言えば、たりめえだろ、俺以外の奴とは行かせねえぞ、と厳しい語調で飛ばされて、ナマエはおもわず声を出し笑った。浴室に響き、はね返る笑い声がリヴァイといるからこそ生まれるものなのだと思うと、どうしようもなく嬉しい。

 なんだか。この人と居られるのなら、飽き飽きするような毎日でもいいかもしれないと思う。つまらない日々は言い換えればおだやかであるということで、変化のない日常は安らぎをともなう。もしもそこにマンネリが生まれても。自分たちが別れる原因にはならないと、いまになって確信できてしまった。

「リヴァイさん」
「ん?」

 だいすきだよ。そう続ければ、リヴァイはやわく微笑んだ。いつもみたいに。この、出逢ったときからまるで変わらないへたくそな笑みを、ナマエは世界一愛している。













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