碧棺左馬刻


11月も中旬に差し掛かった深夜0時前。
港近くの倉庫でヤクを仕入れていた輩共にヤキ入れ終え、後処理を部下に任せて煙草に火をつける。
後ろからクソ野郎共の懇願する声が聞こえるのを無視し、肺に溜まった煙を思いっきり吐き出した。白い煙は直ぐに空気と化して消えて行き、その様を何気なく見ているとスマホからメールの着信音が鳴った。こんな夜中に誰だとスマホを取り出し画面を確認すると、感じていた苛つきは煙草の煙のようにすぐに消えていった。

“左馬刻、誕生日おめでとう”

祝いの言葉と一緒にケーキのスタンプを送ってきたのは名前からで、時刻を見てみれば丁度0時になっていた。
今でこそこうしてメールで送ってくるが、ガキの頃はわざわざ朝一番に言いにきてたっけか。気がつけば緩んでいた口元をそのままに、たった今ラインを送ってきた相手に電話をかけた。コール音が一回鳴り終わる前に電話が繋がり、『…もしもし?』と控えめな声が聞こえてきた。

「こんな遅くまで起きてねーでさっさと寝ろ」

『えっわざわざそれ言う為に電話してきたの? 』

半笑いの名前に「うっせぇ」と返すが、電話の向こうにいるあいつには全く効果は無いらしく、その証拠に笑い声が聞こえてくる。

『でも電話で返すなんて珍しいね』

「…んだよ、文句あんのか」

『ううん、ただ嬉しいなーと思って…ねぇ、お祝いの言葉言うの私一番だった?』

「あ? んなの聞いてどうすんだ」

『質問に質問で返すのはいけないと思いまーす』

「チッ……だとしたら何だよ」

『ふふ、やった』

やったって何だよ。もしかして酔っ払ってんじゃねぇかと思ったがこいつの場合寝るタイプだから違うかとその考えはすぐに打ち消した。

『ほら最近入間さんや、毒島さん、だったっけ? 仲良いからその人達に先越されてないかなーって』

「ねーよ。つか気持ち悪いだろ、いい歳した野郎から祝いのメールとか」

想像しただけで鳥肌が立ってきた。

『えー祝われるの嬉しいじゃん』

「そう思えるのはお前だけだろうよ」

『そんな事ないと思うけどなぁ』

こんなやり取り、他の奴ら相手ならしねーだろうなと思っていると後処理が終わったらしい部下から「アニキ、お話し中すみませんがそろそろ…」と声を掛けられた。

「じゃあ、そろそろ切るぞ。今日は冷えるからあったかくして寝とけ」

『あはは、左馬刻私のお兄ちゃんかよ』

「るっせ。…じゃあまたな」

『うん、……左馬刻』

「何だ、まだ何かあ、」

『産まれてきてくれてありがとう、大好き』

言い終わると同時に通信が途絶え、電話口からは無機質な音だけが流れた。

「…クッソ、あいつマジ…」

「…あの、アニキ?」

「あ"あ"?! んだテメェ急に話しかけんじゃねぇぶっ殺すぞ!??」

「ひっ??! い、いやあの、さっきから話しかけ…いえっ、すんません!」





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